サルンの目がまた冷たくなった。切り替えるサルン。もう、マレイアスは見捨てた。

 捨てたのだ……后を……

 手を大きく振り上げる。えぐられた肩の鮮血を垂れ流しながら……無機質な表情になった。


 無表情のサルン。
 無表情の少年王。
 無表情のサルディーニ……


「さようなら……わが后よ」
 

 瞬間、刃物になった数十本の触手群が一斉に女騎士に向かっていった……




「あは……」
「うふふ、気持ちいい?」
 ミレーユが、少年に尋ねる。

「は、はい……最高です」
 あれから、王家の墓で交尾している二人。口封じと趣味をかねているミレーユ領主。

 エルディーニを狂わせた肉体が、今度は、フィン君を苦しめている。

「う、ぐはっ――」
 最初はと惑ったフィン君。が、今ではもう虜だ。

 にしても、王家の墓でこんなことしていいのだろうか?

「あら、また勃起?」
 もう、十回以上、しているフィン君。それでも、勃起は収まらない。
「も、もうだめです」
「だめよ、立ってるじゃない、コレが寝てしまうまで許さないわ」
 大胆なお姉さんに責められて、よがる少年博士。

 フィン君は、まだまだ狂いそうだ。


「あ、あの……」
「なに?」
 おいしそうに咥えながら、お姉さんが聞く。
「加勢にいかなくてもいいのですか?」
「え?」
 フィン君には、すべて話した……

 そうしないと、納得できないと判断したのだ。ここまで知ってしまえば、逆に話した方がすっきりする。

「…………」
 そう言われるとそうだ。ここで遊んでいる暇はないともいえる。

 ――そうね……


 ミレーユも気になっている。王族たちが負ければ、自分の身も危ない。
「行くのですか?」
「ん?」
 どうやらフィン君は、見に行きたいようだ。

 考えるミレーユ。自分の力が……もし役に立つなら……
 ミレーユは王族と同等の力を持っている一人だ。

 ――そうねえ〜

 萎えたペニスちゃんをくいくいとつかみながら考える。

「行きましょう、こんなことしている場合ではありません」
 言われてみれば、そのとおりだ。お姉さんは遊びすぎ。

 だが、行って自分もやられたら……

 しかし……どのみち、サルンが勝利すれば、いいなりになるしか道はない。


 役に立てるというのだろうか?
 ちょっと考えるミレーユ。

 スッキリして冷静になったのかもしれない。

 ミレーユは考えている……




 

 サルンの目が一点に集中している。マレイアスという女騎士に。

 その目は疑っていた……自分自身の……

 道具を……


 (なぜ……なぜだ……)

 自らが出した触手をじっと見つめるサルン。触手は、マレイアスを攻撃するために向かっていった。
 向かっていたはずなのだ……


 向かっていったはずであった……マレイアスの息の根を止めるために。

「な、なぜ……なぜだ、なぜだ、なぜだ?」
 表情が変わるサルン。少年の表情はみるみる曇っていく……


「お、おお……おおおおおおおおおおおっ!!――――」 
 両手を顔の前に抱え、震えるサルン! その様子をじっと見ている女騎士。


 目の前にある剣のような触手をにらみながら……

 ――とまった……止まった……

 マレイアスに立ちはだかる、唯一つの事実。
 それは触手が自分の目の前で止まったということであった。

 目の前にある無数の触手剣がピタッと寸前で止まっている……

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!――」
 信じられない光景に、叫ぶ少年!


「こ、こんな! こんなばかなあああああああああああっ!――――」
 震える、少年サルン!

 怒る少年サルン!
 驚きに悶える美少年サルン!

「こ、こんな、こんなことが……許されない!――」
 一度スッと引いた触手群! そしてもう一度、マレイアスに向かう!

「うおおおおおっ!!――」
 今度はマレイアスが叫んだ! 赤いドレスを振り乱す女騎士!

 無数のような触手を切り刻んでいく!


「お、おのれ! おのれえええええええええええええええっ!――――」
 触手が切られていく! しかし!

 剣の攻撃をまぬがれた触手は、マレイアスの体を突き刺そうとする!

(……とまる……)

 事実が飲み込めないサルン。

(止まる? ……とまる?)

 触手が……触手が寸前で止まってしまった。

(どういうことだ……なぜだ……理解できない)
 突き刺せという命令を無視する触手たち。まるでマレイアスを守っているように……


 呆然とするサルンをよそに、マレイアスは残りの触手を切り刻んだ!

「こい! サルン! 決着をつけてやる!――」
 結界の下にいる女騎士が、強い決意で叫んだ!
 絶対的上位にいる少年王に向かっての一言!

「ふざけてる、ふざけてるよ……これはふざけてるよ……ふざけるなあああああああああああああああああああああっ!――――」

 鬼のような形相に変わる美少年。美しさを一瞬にして取り払った!


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!――――」
 さらに倍近くの触手を後光のように輝かせる、ダークエルフの少年王!


「消えうせろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!――――」
 さきほどよりも、すさまじいスピードで、触手たちはマレイアスのもとへと向かっていった!
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