「反対しなさい」
「…………」
 麻里華派が別室で集まっている。イライラしている三瀬麻里華。

「これは亜津子のしわざよ。あの女の言うとおりになんてさせるものですか!」
 語気を荒げる童顔副会長。亜津子の仕業と決め付けている。

「過半数は私たちが握っているのよ、何も恐れる必要はないわ。分裂させようってのが気に入らないのよね」
「亜津子もやきが回ったわね〜」
「こんなことしても無駄だっての〜」
 続々と同意の意見が出る。

「みんな、裏切ったらただじゃすまないわよ」
 自分の派閥に拘束をかける麻里華。引き締めをはかっているようだ。
 しかし、風紀委員長は疑問に思っていた。

 ――会長……亜津子の仕業?

 ――おかしいわ。
 めがねがピクッと動く。風紀委員長の御木愛。インテリという言葉が似合うタイプだ。
 美人ではない、神経質そうタイプ。だが、頭の回転はよさそう。

 意見を言おうと思ったが、もう反対で決まっている。
 副会長の性格だとこれ以上は、言わないほうが賢明らしい。



 一方の亜津子……

「まさか、翔子を推すなんて……」
 もはやなんと言ったらいいかわからない三毛亜津子。どうしてこうも如月翔子という女は、トラブルの種を撒くのかという思いだ。
「どうするの亜津子?」
「……賛成するわ」
 にっと笑う。

「いいの? あいつに風紀の副委員長なんか与えて」
「麻里華のあの表情見た? あれは通じていないわね」
 事前に会長と副会長は通じていないと判断。翔子は嫌いだが、風紀委員長の中に入り込むのは得策と判断した。風紀委員長の御木愛は、麻里華派だからだ。

「でも、反対多数で……」
「いいのよ、賛成しなさい、それで十分よ」
 否決されても気にしないと言う。

 ただ、なんで翔子が……

 それがわからない。

 そのわからないのは、議長もだった……



「どういうつもり?」
「意図はないわ」
「麻里華も亜津子も寝耳に水のようだけど」
「そうよ、何も言っていないもの」
 にこりと笑う生徒会長。その表情に驚く議長。
 会長室で話し合っている。

「美知……あなた……」
「私は自由にやりたいの」
「え?」

 自由?

 いきなり何を言うのかと思う議長さん。

「そろそろ時間ね」
「みんなが反対されたら、困るんじゃない? その時はどうするの?」
「全否決でも……その時は……独断で指名します」
「ええ?」

 また驚く議長!

 独断?


「み……美知……まさか」
「会長にはその権利があるわ」
「で、でも……ちょっと本気?」

 独断……強制指名権を使うつもりの会長。

「ちょっとまって美知、それやると……」
「生徒会第11条……執行役員以外の下部組織の役員、及び生徒会の入会、罷免、指名は生徒会長単独で採決、決定できる」

 たんたんと述べる海道美知。その表情に強い決意が見える。
 調整役に徹してきた穏やかな会長ではない!
 親衛隊のようなファンはいるが、美知には派閥がないのだ。
 人を惹きつける力はあっても、縛る力がない。

「どうしたのよ、美知」
 親友である日向 萌美は、ただただ驚くばかりだ。

「あなたは淡々と議事を進めて頂戴。議長の勤めでしょ」
 ゆっくりと評議会室へ向かう。その姿は堂々としている。

 高貴で気品ある胸が、ゆっくりと……
 親友である議長は、ただただ従うしかない。

 ――そう、わかったわ、しっかりと勤めてあげる。
 萌美も覚悟を決めたようだ。



 採決が始まろうとしている。



 睨みをきかせる麻里華。裏切り者さえいなければ完全に否決だ。
 じっと目をつぶる三毛亜津子。こちらは、冷静。

 海道美知が生徒会長になってから始めての採決である。
 今まではすべてが全開一致だったのだ。

「それでは採決をとります」
「二回生、風紀副委員長に如月翔子さんを指名することに賛成の方はご起立願います」

 亜津子派は全員起立してくれた……

 だが、数が足りない。にっと笑う副会長。これでは過半数は取れない。
 しかし、次の瞬間……

「採決の結果、本議題は否決されました」
「みなの意見はわかりました、それでは新たに提案いたします」

 え? とみなが会長を見る。

「評議会では否決されましたが、私、会長の立場としては、この提案は必要不可欠と思っています。よって、強制指名権をここに行使いたします」

 一同に緊張が走った……

 ――な……


 ――なんですってえええええええええええええっ!

 一番驚いたのは麻里華だ。まさか強制指名権まで使ってくるとは。

 これで副会長の面目は丸つぶれ。

 一方、目をつぶる風紀委員長。予想されたことらしい。

 まったく……やっかいな女を……

 ――まいったわね……

 まさに火種を抱え込んだ風紀委員長。

 目が点の副会長。この現実が信じられない。
 こんなこと、信じられない!

「では、これにて閉会いたします」
 誰も異議は言わない。会長の迫力に圧倒されているのもあるが、その横の二人が何も言わないので、というか二人も何も言えないのだ。
 その不気味な雰囲気の評議会をよそに、
 スッと会長は立ち上がり、平気な顔して部屋を出て行った……



「亜津子……」
 麻里華がつぶやく。
「何か?」
 目を合わさずに返事の亜津子。

「覚えていなさい!」
 怒りに震える副会長、怒りは会長ではなく、執行部長にだった。

 全勢力を使って否決をした。それをまさかの会長の権限で……
 ひっくり返された……

 これ以上の屈辱はない!
 そしてこれは亜津子の罠と判断。

「あの翔子って女を使って何をしようというの!」
「さあ〜知らないわ」
 とぼける。というか、こちらもわからないのだ。だが、その態度は、亜津子への憎しみが増えるだけ。

「……無事ではすまないわよあの女」
「別にいいけど。むしろ、願ったりなんだけど」
「何ですって?」
 キッと睨む。

 冷静を失っている副会長。
 もはやなにがなんだが……

「亜津子……私のプライドはずたずたに引き裂かれましたわ。この屈辱は万死に値します」
「…………」
 そう言われても困るのは亜津子の方だ。

 麻里華が怒りにまかせて出て行った……
 ぞろぞろと派閥が出て行く。否決を覆されたのだ、これ以上の恥辱はない。

「議長……どういうことかしら」
 今度は亜津子が議長に聞く。
「わかりません、私は務めを果たしただけですわ」
 
 そして呆然としている水泳部キャプテン。
 もう、ただただあきれるばかり。


 ――気に入ったのね。美知……
 ――でも、ここまで……するとは。

 目が険しくなる亜津子。


 ――翔子……やっぱりあなたは……危険……

 まさに如月翔子は、火薬庫、起爆剤である。
 爆弾を撒き散らし、相手に発火させまくっているようなものだ。
 しかも、その爆弾をなぜか会長海道美知は、使い始めたのだ……




 その頃、問題児如月翔子はというと……

 のん気に音無良子とお部屋でお茶をしていたのだった。
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