「ねえ〜マイカお姉さま〜」
「ん?」
 ちょっと酔っているエンヤ。飲みすぎたようだ。

「うふふ……今日はどうされるの?」
 そっと寄り添ってきた。マイカはちょっと引いている。こんなところは他人に見せたくないのだ。
 まるでドレスで着飾ったお嬢様同士が愛に戯れているようだ。美しい娘同士の愛……

「そ、それより、ミツアーウェル様、どうされたのかな?」
 さっとそらすマイカ。
 あれから二時間近く御座の椅子に座られていない。それに今日は最初のあいさつだけでパーティの中に入ってこないのだ。

 毎回晩餐会を催す時には、交流を深めるために必ずメイドたちとお話しするミツアーウェル

 しかし今日は違うようだ。



「はあ〜あのぷっくり太った人のことですか?」
 ボーっとしているエンヤ。
「こらこら、そういうこと言っちゃいけませんよ」
 マイカがメッといった顔をする。
「うふふ……お姉さまかわいい」
 駄目だ、もうエンヤは自分の世界に入っている。

 ――駄目ね、もう……

 あきらめ顔のマイカだった。




 (う〜ん……)

 シミリアンが何か探している。だが、ダルマさんではない。

 (にしても……嫌なこと聞いちゃったよな)
 少年にも意味はわかってはいた。さらに名前まで聞いてしまった……

 


 正直……


 後味が悪い……



 (あ! いた、いた……)

 ミクだ、どうやら手が開いたのでミクを探していたらしい。
 あれから一室に篭ってしまったミツアーウェル。だれであろうとこの偽装貴族娘の中から……
 さらに……というこで、これがこもってしまった理由らしい。


 憂鬱になったミツアーウェル。あの愛嬌のある顔が寂しい顔になっているのだろうか?


 かわりにこちらは、だんなさまの相手をしなくなってよくなったので、暇になったというわけ。

 正直シミリアンも忘れたいのだ。 あんな話聞きたくもなかった。

 それとミクが気になっていたのもある。
 この両方の意志がミクを探させていた。
 

 いたいた、ま〜だクッキー食べているようだ。今日のミクの晩餐会はクッキー晩餐会。

「やあ、さっきはごめんね」
「あ……」
 また会ったという顔のミク。クッキー片手に持ったまま……
 しかし金髪少年を見てもときめきはない。

「元気してた?」
 さっき会ったばかりで積極的だ、ロットとはまったくの正反対。
「あ、は……はい」
「君はどこのお嬢様?」
 間髪いれずに次の口説き文句が出る。
「え?……」
 お嬢様といわれてちょっと困るミク。たしかに今はお嬢様だが。

「いろいろ君とは話しをしたいんだ」
 ぐっと目を見るシミリアン。正直な素直な瞳だ。これにぐっと来る女性は多いかもしれない……



 が……


 ミクには通用しない。




「はあ〜……お話……ですか?」
 とぼけるミク。どうやらアタックされているのはわかってきたようだ。
「うんうん」
 にっこり微笑む少年。スラーットしたスタイルもいいシミリアン。お尻もかわいくピュッと出る感じ。
 もてそうなタイプだ。

「何もありませんわ」
「へ?」
 


 なにもありません……



「いや、あはは……お話するの嫌い?」
「ううん」
 首を横に振るミク。
「じゃあ、なに話そうか?」
「う〜んと……」
 引き下がらないシミリアン。手馴れている、次から次に言葉が出る。

「さっきのあの太った人……だれ?」
「ええっ?……」
 さすがにびっくりのシミリアン。


 (おいおい、だんなさまの顔知らないのかよ)

 ちょっとこれはいただけないと思ったのだろう、だいたい服装を見ればわかりそうなものなのだが。

「もしかして酔ってる?」
「ううん」
 否定するミク。お酒は飲んでいない。
「もしかしてとぼけてる?」
「うんうん」
 認めるミク。

 そしてにっこり。

 


 手ごわそうだ……ミクは。



「君って面白いね、ねえ〜向こうで……」
 と言いかけた時だ、


「ミク〜」
 カフスを着た女性が呼んでいる。
「あ、リリスさん」
 目がきらっと輝くミク。




 ……  


 …………え?……



 …………ええ?……


 (えええええっ!!……?)

 シミリアンの前にカフスを見事に着こなしているリリスが現れた。
 
後ろ ミセルバMトップ