椅子から腰を上げてゆっくりと立ち上がる男。

 筋肉質の美しい体が、妖しく、薄暗い光によって不気味さを出している。
 さらにワイングラスを前に出し、リリスに見せつける。それをじっと睨みながら見ているリリス。


 ――誰? だれなの?

 相手が誰かは全く分からない。だがこの男が今から何をしようというのは手に取るようにわかる。
 闘牛士のような仮面の男はゆっくりとリリスに、未だ寝ているミクに近づいてくる。
 リリスが剣を構える。だが震えている……

 さすがにリリスも恐怖心が出ている。

 ピタッっと男の動きが止まった……

「君はこの土地の人間か?」
「……何をするつもり?」
「質問に答えたまえ」
 少しいらだっている男、が、すぐに笑顔に変わる。口元の緩みはまさに気味が悪い。さらに口ひげがそれを際立たせているのだ。

 振るえながらも真剣に剣を構えるリリス。まさかこんなところでファッションの感覚で身につけていた剣を使うことになるとは……

「ふむ……どうやら違うようだ、君は垢抜けているようだ。この土地の女はだいたい古い」
「どうする気よ! ちょっと!!」
 余裕をかましているリリパットにリリスが少し苛立ちを始めた。メイドのリリスがリリパットを睨んでいる。といっても見かけは美貌の貴族の青年が立ち向かっているような構図だ。

「……う、……うん」
 今の一声でミクが……ミクが目覚め始めた。

 ハッとする……ミク!!


 (なに? なになに?)


 今の状況が掴めていないミク。周りの壁にはツス家の黒い不気味な紋章がずらりと刻まれている。
 身震いがしたミク。そして横で震えながら剣を持っているリリスがいる。貴族の格好をしたお嬢様がゆっくりと立ち上がった……

 男が十人ぐらいいる……みな仮面に黒い衣装だ。不気味としかいいようがない。

「リ、リリスさん……」
 楽しい晩餐会から一気に恐怖の儀式に舞台が移ってしまったことに驚きを隠せない。

 クイッっと一気にワインを飲み干すリリパット。そしてそれをゆっくりと側のテーブルに置いた。



「始めろ」
 男達が一斉に襲い掛かり始めた!
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