「リリス!」
「リリス!」
 レイカの声が後ろから聞こえる。メイド服を着たメイド長が駆け寄ってくる。
くるっと振り向いて一言。

「なんでしょう?」
「……あなた……ほんとうにどうするの?」
 レイカは心配そうだ。もう嫌いなリリスという雰囲気じゃない。リリスの方もレイカが本気で心配しているのは分かっている。

「メイド長、あなたは納得できます?」
 リリスが聞いてきた。城内の廊下で立っている二人。ここはメイドや使用人が使う通路だ。
 今は二人っきり。

「出来ないわ、出来ないけど……ね、ね、あなたのためなのよ」
「ですから、なんで辞退したいと言うのが私のためなのです?」
 言い返すリリス。さっきからこの繰り返しだ。ジボアールにもバルザックにもだ。

 するとちょっと回りを見るレイカ。誰もいない事を確認して、
「ちょっと部屋まで来て」
「……いいえ、仕事がありますから」
「私が言っているのよ」
 手を引っ張ろうとするレイカ。 しかしリリスは嫌がった。リリスは黙っている。そしてしばらくして……


 ポツリと言った。


「ツス家の方はなんでこのようなことをなさるのでしょうか?」
 ビクッとするレイカ。
「ちょ、ちょっと……」
「…………」
 そして黙るリリス。返事を待っている。

「いろいろあるのよ、あなただってそういうこと大人だからわかるでしょう? あなたは賢いはずよ」
「わかりません」
「もう!」
 ちょっと大きい声を出すレイカ。
 すると……







「あの〜どうかなさったのですか?」
 ミクだ。ミクが近寄ってきた。話は聞いていないようだが二人が言い争っているので気になっているようだ。ミクはなんとなくリリスを探していた。何かを話したくてたまらないといった表情のミク。

「後で、とにかく私のところに来て頂戴、いいわね?」
 レイカがちょっといらいらするような顔で去っていく。ミクがいなければ無理やり引っ張っている。

「どうしたのですか?」
「何でもないのよミク」
 にっこりと笑うリリス。しかしどことなくいつもと違う。それをミクは敏感に感じ取る。
「それより……どうだった?」
「……あ、は……はい」
 黙って下を向いてしまったミク。

「どうしたの?」
 とやさしく顔を抱くリリス。
 何か言いたいミクだがここでは……という顔のようだ。

「後で私の部屋に来て頂戴、いろいろ話も聞きたいし……いいわね、ミク」
「あ、はい」
 頬をそっと手で触られて顔を見合わせる。リリスはにっこりと微笑んでいる。
 ミクは少し気持ちが楽になったようだ。

 そう言ってリリスはメイド長の部屋に向かっていった。
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