1週間後……




 庶民が買い物でにぎわう市場がある。
 市場では一番売れるのは生活用品だ。その次は服飾用品。

 その服飾用品で結構有名な店に数人のミセルバさまのところのメイドたちが集まっている。

「ねえ〜これなんかどう?」
「あ、いい、それ〜ねえねえ、こっちはどうかしら?」
 全部で十人ほどだろうか? その中にリリスやミク、マイカもいた。なにやら一生懸命ドレスを探しているようだ。探しているというよりどれにしようかと決めているのかもしれない。

「お客様、もしや今度の晩餐会に出席なさるのですか?」
 横にいた服飾屋のボーイが声をかける。どっかの屋敷のメイドだとすぐにピンっときたようだ。
「ええ、そうよ」
 答えるリリス。リリスたちはもうすぐ開かれるメイドの晩餐会に出席する予定なのだ。
「では、どなたかこちらの物をお召しにはなりませんか?」
 と言ってボーイが持ってきたのは男性が主に着るカフスだった。

「いまなら非常にお安く出来るのですが」
 女性に男性のカフスタイプの服を薦めるボーイ。女性が着るといえばドレスだろうと思う人もいるかもしれないが、この国では必ずしもそうではない。男性の貴族が着ている物でも着る事がある。ハーフコートジャケットのようなタイプで、胸元をスカーフで締めて、腰には剣を刺すためのベルト付き。

「あら、これいいわね」
 リリスが興味を示したようだ。みんなドレス派ばかりの中でリリスは迷っていたらしい。
「女性の方が着る場合は貸衣装でしたらお安く出来ますので」
「買うつもりなんだけど」
「え?」

 おどろくボーイ。 

 買う? 

 普通、こういう場合は貸衣装と相場が決まっている。貴族の身分でもない限り買うなんてことはありえない、というか庶民には高くて手が出ないのだ。だがこのボーイはメイドの晩餐会の意味をよく知らなかった。

「失礼ですが、どちらさまの……」
 ボーイが聞いてきた。
「ミセルバさまのところで仕えている者よ」
 ハッとするボーイ。

「少々お待ちを」
 と言って奥に引っ込む。すると今度はこの店の主人のような中年男が出てきた。

「いやいや、これはこれは、いつも御領主さまにはお世話になっております」
 にこやかに答える店の主人。いかにも権力者には媚びるというタイプだ。


 だが現実はこういうのが商売人には似合う。


 作者も経験済みだ。


「十着ほど購入する予定よ」
 リリスがにこっと答える。ドレス十着買取……これはお店にとって非常に大きい。一着につき貸衣装の十倍以上を出してくれるというのだ。しかも十着以上も……庶民感覚では考えられない。

「あ、ありがとうございます、おい! お茶とお菓子のご用意を!」
 他の貴族に仕えるメイドにお茶とお菓子……こういうのも普通は考えられない。

 やはりいつの世もお金がモノを言うのだ。
 にこにこと店の主人が笑う。おそらく頭の中はドレスの購入代金のことでいっぱいだろう。
 
 この日この店はリリスたちで貸切になった。




「さて……と」
 ガッツが疲れた様子で、書類をまとめている。騎士団長の部屋で嫌々ながら申請書を作っているガッツ。今度の昇進試験のために中央に行かなければいけない騎士団長。こういう書類書きとというのが嫌いでたまらないタイプなのだ。後4日でミセルバ様が治めているこの土地からしばらく出て行くことになる。

 ――めんどくせえなあ〜ほんと……だれがこんな決まり作ったんだ?
 だが、避けては昇進試験に行かれない。騎士帝長への申請と御領主への認可申請、検問所をスムーズに通過するためのミセルバ直属の騎士としての証明書の申請……なんやかんやでいろいろとある。

するとコンコンと団長室の部屋を叩くノック音。


「だれだ?」
ミリアム殿がいらっしゃいました」
 騎士の声がする。御当主であるリリパット卿の一番若い側近の青年だ。
 めがねの似合う青年といったところ。
 スラッとした長い足……セクシーな腰つき……女性にモテそうなタイプ。一方のガッツは女性に嫌われるタイプ。
「……とうせ」

 ――ミリアム? 何しに来たんだ?――
 少し考えるガッツ。何の用だと。リリパットの側近が何のようだ?

「お久しぶりです、ガッツ様」
 ペコッと頭を下げる青年。なにやら意味深な顔だ。
「おお、いいあいさつの仕方だ、最近の若い奴のあいさつはなってないからな、ところで何しに来た?」
「お人払いを……」
 チラッと横にいる騎士を見て、下げてくれと言うミリアム。ピクッと眉が動くガッツ。御当主からのなにかを言われて来ていると即座に頭が反応した。
「……おい……でてけ」
「はい」
 言われるがまま騎士は出て行った。それをしっかり見届けた後、ミリアムはぽつりとこう言った。


「メイドの晩餐会はいつかご存知でしょうか?」
「はあ? いきなり何言ってるんだ? お前」
 ガッツにいきなりメイドの晩餐会のことを尋ねるミリアム。

「その日にご予定がなければ……と思いまして」
「どういうことだ?」
 ミリアムをじっと見るガッツ。


 ミリアムがこういうことを言うという事は……




「……聞かせてもらおうか……御当主の用件とやらを」
 少し真剣な顔でガッツが聞き返す。

 チラリと周りを見るミリアム。誰もいないのを確認する。今、この部屋にはガッツとミリアムだけだ。
 しかし今回は他人には絶対に知られるわけにはいかない事情がある。

「実は……」
 ミリアムはゆっくりと丁寧に話を始めた。




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