女たちの愛の競演が行われている時……一人の騎士がある場所にいる……。
 他の2・3人も騎士のようだ。後は人足のようなものが10人ほど。
 


 暗い……

 明かりといえばランタンぐらいのものだ。
「うい〜……もうそろそろか……」
 どこだろうか? ここは。
 なにやら人気のないさびしいところのようだ。横には倉庫みたいな物置小屋がある。
 小船が向こうからやってきた。どうやら荷を積んでいるようだ。
「どうも、ガッツさま」
 小汚い格好をした小男がへへへと笑いながらゆっくりと駆け寄ってきた。
「おう、久しぶりだな、元気にしてたか」
 騎士の名はガッツ。あれから解散してここに来たらしい。


 
 しかしこんな汚い場所に……なぜ?
 酔っている状況でこのなにやら妖しげな場所に……





「今日の荷はこれでございます」
「どれ……」
 といって船の荷を調べ始めたガッツ。かなり酔いながらだが。

「ほう……これ……金箔の彫刻か?」
 貢物のようにいろいろな財宝らしきものが船に積んである。
「ええ、海を隔てたかの国からのものだとか……それといつものブツもありますよ」
「うむ……」
 と言ってゆっくりと米俵のように積みあげてある物に近づく。そして側にあるアイスピックのような物でその物を突き刺した。

 白い粉……のようだ。それをそっとピックについたモノをガッツは舐める。
「うむ、いい味だな……純度もグッドのようだ、これなら高く売れるだろうな」
 ご機嫌の様子で小男に言うガッツ。
「では、ガッツさま、後はよろしくということで……」
「おう、お前ら、運べ」
 連れて来た人足たちに荷を降ろすように命令する騎士団長。米俵を抱えるようにして人足たちが担いでいく。

「今後はお前らの役目だぞ、いいな、もう俺は卒業だ」
「は、はい」
 他の下級騎士達に言うガッツ。そう言うと近くにあった椅子にどっかと座る。


 この荷は……薬だ。

 そして金箔の彫刻は……本来なら……税関所を通さないといけないものばかり。
 さらに白い粉は……本来持込が禁止されている薬物……。


 つまり……密輸である。

「後はこれを例の場所へ持っていくというわけですか?」
 よくまだ事情が飲み込めていない騎士の一人が尋ねる。
「ああ、そうだ、その時俺達の身分が必要というわけだ。もっとも最近は役人どもも何〜にも言わないがな」
 にやにやと笑いながら答えるガッツ。これを後はある屋敷の地下倉庫に持っていって……裏の世界のオークションで捌く……というわけである。表ではすべてこれを通すことが出来ない。
 だからこのような場所で……
 そしてこの裏の世界でもっとも力を持っているのが小麦色の肌を持つあのアイラの父親だ。



 騎士たちには特権がある。

 それは一般の役人(現代なら警察など)の捜査を拒むことが出来るのだ。妖しい荷と思われても調べることが出来ないというわけである。騎士がかかわるものは場合によっては貴族の奥方の衣装や秘密文書などもあるからだ。そういうものを平民の役人が調べることは出来ないのは当然であった。


 船から積み出された荷を騎士専用の荷馬車に積んでいく。騎士の称号が入った馬車。これなら一般の役人などは手を出せない決まりになっている。これを利用、悪用するというわけだ。もちろんこんなよふけに騎士がなにややっていれば不審に思う人もいるだろう。しかし今の世、もうそんなことで文句を言う人はいない。

 

 いや、言う気もない。



 もう何十年近く平気でこういうことをやってるのだ。不正や腐敗はここまで進んでいる。
 いや、もうその不正という感覚さえもない。ガッツも悪いこととももう思っていない。むしろ当たり前の仕事のようなものであった。
 いつの時代もやっていることは同じ。
 
 

 じっと積荷が移動するのを暇そうに見ているガッツ。まるで堂々と当たり前のような態度。
 代々騎士団長クラスがやってきたこの慣例……そろそろめんどくさくもなってきた。

 ――別に俺がいなくてもいいんだがなあ〜
 下級の騎士たちでも十分だ。まず調べられたりすることはない。

「団長は今度の晩餐会には行かれるのですか?」
 騎士の一人がなにげなく聞く。
「晩餐会? 何の?」
「メイドの晩餐会ですよ」
「ああ……あのガキどもの集まりか、あれには俺は出れないな、もうすぐ中央に行かなきゃならん」
 めんどくさいという顔をしているガッツ。中央に行くとはどういうことだろうか?

「昇進試験でありますか?」
「そうだ、研修も兼てな、一月ぐらいはいないからそのつもりでな、どうだ? うれしいか?」
 くるっと振り向いてわざとらしく騎士の一人に言う。
「い、いえ、そんなことはありません」
「がはははっ! 本音を言えよ! 本音を!」
 ご機嫌のようだ。38歳の騎士団長は。

「そういえば……メイドといえば……シスアを見ませんな、最近」
 別の騎士が何気なく問いかける。
「なんだ?お前狙ってたのかよ?あの女、なんでも御当主様の側にいるらしいぜ」
 もう一人の騎士がなにやら話し始めた。
「それって……愛人……ということか?」
「知らなかったのかよ、だれでも知ってるぞ」
 騎士たちが噂話をしている。すると……ガッツがぼそっと言う。





「……あいつ……へたすりゃ殺されるぞ」
「え?」
 びっくりする騎士たち。ガッツのいう言葉に驚きを隠せない。

「俺も最初は遊び程度だと思っていたんだがな」
「御当主様は本気というわけですか?」
「うむ……そうなるとただではすまん、本気とならば……な」 
 ちょっと険しい顔になるガッツ。

「よく考えてみろ……ツス家の他のお嬢様方々がこのまま許すはずがない。
後ろ立てもないはずだぞシスアには……どういうつもりなんだろうな」
 酔いながらいきなり不機嫌になるガッツ。お嬢様方々とはツス家の女たちのこと。例え60過ぎたババアでもお嬢様と言うのが慣例らしい。
 御当主とはリリパット卿のことだ。そしてリリパットはいま、何が気に入らないのか、本気でシスアのためなのか、ミセルバのメイドの人事に圧力をかけている。

 


 シスアのために……? いや、違う……




「特に……もしやの事態になればなおさらだなあ〜」
 すると騎士の一人が聞き返す。
「それは……子を身ごもった時と……」
「とうの御当主は種無しという噂らしいけどな」
 今まで千人ぐらいの女を抱いているリリパット。しかし子供は出来ていない。
「…………」
 お互いに目を見合わせる騎士たち。

「もし出来たら大変だぞ、子が後継いだらシスアは跡継ぎの母親だあ〜」
 酔った勢いで笑いながら叫ぶガッツ。
「あの……あの小娘がツス家の当主の母親……ですか?」
 信じられないという顔の騎士たち。メイドが当主の母親だと?
「そんなこと他のツス家のお嬢様方々が許せるはずがないだろう、他のツス家の殿方も黙ってはいまい、まして……あのお嬢様のトップの方はな〜」
 首をクイクイと左右に振って酔った頭をなごませるガッツ。

「お前ら、いい機会だから言っておく」
「は、はい」
 騎士たちが答える。
「ツス家は自分たちに見方をしてくれる者には気持ち悪いほど……手厚いが……
敵とみなせば容赦はない」

「は……はい」
 真剣に聞いている騎士たち。この騎士たちはもちろん御領主の配下の騎士たち……つまりアウグス家の騎士たちだ。人生の立ち回りを生意気にも語るガッツ。
「ツス家の恐ろしいところは敵本人から潰すのではなく……周りからじわじわとだな〜……」
 ちょっとガッツの声も小さくなる。酔っていてもやっぱり怖いのだろう。はっきりと言いたくないという感じがこもっている。
「まあ……そういうことだ、アウグス家や他の家柄の方々ももちろん大事だがツス家だけには逆らうなよ」
「わかりました」
 真剣に聞いている騎士たちであった。

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