困惑

「次長を？」 「はい」 　ジボアールが軽く頭を下げる。 「今まで異議を申し立てたこと、お許しください」 「許すもなにも……あなた達もそれなりにこの城、そして私の事を思って意見を言ってくだされたのでしょう？」 「はい左様でございます」 　ジボアールがまたミセルバに頭を下げる。ミセルバは今少し驚いている。あれだけ反対していたジボアール議長が急に次のメイドの次長をあいまいにせずに決めるべきだと言うのだ。そしてジボアールから進言される前には騎士帝長も同様の事を言ってきていた。 　――怪訝に思うミセルバ。当然だろう。 「私としてはうれしいわジボアール。でも……どういうこと？」 「はい、実は騎士帝長ともいろいろと相談したのですが、やはりミセルバ様の意向を重視するのがこれからはよいと言うことで」 　老人独特の低い声。 「そう……私としてはうれしい限りだけど」 　逆に不気味でしようがない……。 　――信じられないわね……だれかの進言かしら？ 「では、私はこれで」 「ええ、なら異論はありませんね」 「はい、もちろんでございます」 　素直な返事だ……いつも小言をいうジボアールとは別人である。理由をもっと突っ込んで聞きたいところだが、この話は自分にとって好都合。 　なにかあるわね……これは。 　だが、ミセルバとしては立場をはっきりさせる事には賛成だった。あいまいが嫌いなタイプの女性なのだ。となれば候補は……。 　――リリス。 　ミセルバの頭に浮かぶのはリリス。 　――やだ、せっかく忘れてたのに。 　もやもやがよみがえる。リリスは嫌いではない。が、今は複雑…… 　――でも、ここはメイドたちの意見を聞くべきね。それで決めるべきだわ―― 　――自分を納得させるためにも―― 　なら早速……ジボアールが退席した後、側にいたメイドにレイカを呼ぶように命じたミセルバ。まずはメイド長の意見を……といったところだろう。 　ミセルバは疑問をいろいろ持ちながらもこれからの事を考えていた。 　執務室で椅子に腰掛けているリリス。 　――はあ〜どうしちゃったのかしら。ため息ばかり……。 　原因はもうわかっている。わかっているのだが、認めたくない。 　――あの少年に……ロットさまに。私が有利にしてどうこうじゃなかったの？ 　男に抱かれることは初めてでもない。むしろ手馴れているはず。少年というタイプは初めてだったかもしれないが、むしろ魅力と言う点では今までに出会った男の中では低いほうだ。リリスにとっては役不足のはずなのだが。 　――う〜ん―― 　心の整理がつかない。 　――どうしていいようにされちゃったのかしら？ 　まあ〜でも。結果的にはＯＫだけどね…… 　コンコン―― 「失礼します」 　ノックをする音。 「どうぞ」 　入ってきたのはマイカだった。 「あらマイカどうしたの？抱かれにきたのかな？」 「やだっ、リリスお姉さまったら」 　ポッと顔を赤らめるマイカ。 「ふふふ」 　にこにこしているリリス。 　――マイカを見るのも久しぶりね。ここのところ、忙しかったし―― 「お菓子持ってきたんですよ」 「どれどれ、あら、おいしそう」 「とくにこれが一番おいしそうですよ」 　お姉さまに喜ばれて満足感一杯のマイカ。 「そうそう、お姉さま」 「なあに？」 　もうリリスはチーズを挟んだビスケットを食べ始めている。ちょうどお腹がすいていたのだ。 「メイド長がミセルバ様に呼ばれたらしいですよ」 「ん、それがどうかしたの？」 　レイカが御領主に呼ばれることはよくある事だ。 「それがなんか……次長の職を正式に決めるとか」 「！……」 　――ええ！どういうこと？―― 　保留になってたんじゃないのかしら？二人の老人に止められて。 「それほんと？」 「ええ、だってモーラが……そう言ってました」 　ミセルバ様の側にいたメイドは、モーラだったのだ。 　――納得、だわ。あの子なら……今頃はもう、すべてのメイドに。 　リリスの感はするどい、モーラはおしゃべり好きで有名だ。拡声器のように辺りに話しまくってるに違いない。 　――そう―― 　でも、おかしいわね、よくあのおじいちゃん達が認めたわね・。ミセルバが言うたびに散々反対していた二人。リリスが不審に思うのも無理はない。サブリーダーはリリスになってはいるが、それは一時的なものだ。次長の役職を与えられれば立場の差ははっきりとする。だが、それはリリスとは決まってはいない 　他のメイドたちはみなリリスがなると思ってはいるのだが。 　なにか……ある。私にも関係あることだし……ご老人達は反対していないのかしら。 　気になる―― 　期待と不安がよぎるリリス。そして不安はまさに現実になりつつある・・

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