「今日は〜おいしく頂いていますよ〜」
 ご機嫌ガッツ。ミウリにもにこにこ答える。
「ゆっくりしていってね、あんたには世話になってるし」
「ガハハハッ――
 いつもの低い声でガッツが答える。
 ミウリ……ミウの母親だ。年はもう60近く。いくらガッツでももう許容範囲は超えている。ガッツとは昔からの家同士でつきあいがある。ということはツス家リリパットとの関係があるガッツは……大事な人と言う事だ。
「あ、そうそうミウが今ならいるよ」
「ミウ? どうしてだ?」
「最近は自由が効くらしいよおかげで助かってる」
「そうか……」
「じゃあね、ほどほどに……」
 そういうとミウリはまた奥に引っ込んでいった。
 
ミウ……ラルティーナのもっとも信頼されているメイド。 
「そういえばここは団長殿の幼馴染がいるところとか

「ああ、ミウって言うんだが……」
 
 ――ここに来れる? ミウがなぜ?
 ガッツが何か考えているとその目の前にミウが……
 

 ミウがあらわれた……。


「お、おおっ……
ミウ」
「久しぶりね」
 にっこり微笑むミウ。彼女にはガッツしか見えていないようだ。証拠に瞳はガッツでいっぱい。
「元気にしてたか? あっ?」
「う、うん」 
 ちょっと恥ずかしそうなミウ。惚れている男の前だからだろう。するとガッツが立ち上がった。
「ちょっと別の場所行こうか」
「うん」
 二人は酒場の出口に向かう。それをみながじっと見る。もちろんリシュリューも。そしていなくなったらまた馬鹿騒ぎが始まった。

「あの女は?」
 騒いでいる騎士の一人にリシュリューが尋ねる。
「ミウって言うんですよ。団長の幼馴染とか」
「ふ〜ん」
 ジョッキを片手にまた考え事をしているリシュリュー。
「団長に惚れてるって噂らしいですよ」
「ほう〜」
「でもツス家のお嬢様が許さないでしょうけど」
 ピクッと眉が動くリシュリュー。
「ラルティーナ様のことか?」
「ええ……」
「詳しく聞きたい」
 リシュリューが横にいた騎士に聞き込みを始めた。






「うい〜」
 ガッツがいつものように女に手を出して……ではないようだ。何か態度が違う。
「元気そうね」
「ああ……お前、暇もらったのか?」
 ガッツが問いかける。メイドはほぼ住み込みだ。めったに帰れないはずだ。特にお嬢さまの屋敷は外出等に厳しい。
「ううん、外出等は最近自由が効くの」
「ほう……えらくなったもんだなあ〜」
 にこっとガッツが笑う。

 違う……この男……いつものガッツの表情ではない。グビグビっと持っていた酒を飲むガッツ。なんか妹を優しい目で見るお兄ちゃんって感じだ。いったいどうしたのだろうか?
 これにはわけがある。ガッツとこのミウは幼馴染なのだ。ガッツもミウにはなぜか手を出さない。理由はなんとなくだがミウを見ているとわかるような気がする。ミウは真面目なタイプ。生真面目で派手が好きではない。なんとなくガッツの好みにも合わないのだろう。
 それに幼馴染をさすがにてごめにしたくはないのかもしれない。

「お嬢様はお元気か?」
「うん」
 ポツッとつぶやくミウ。
「あの方は怖いな……いつみても」
「そう? いい人だと思うけどな。あなたにやましいことがあるからじゃないの?」
 図星だ。女をそういう目で見ているとチクリと釘を刺されるガッツ。
「お前なあ〜」
 ちょっとムッとする。しかし、それ以上の狼藉はしない。やはり手を出しにくいのだろうか?
「ねえ……あなた、将来の事考えてるの?」
「将来? 38の男に今更か?」
「御当主様が地位を退かれたらラルティーナ様が継ぐことになるのよ」
 リリパットには跡継ぎがいない。子がいないのだ。当然妹のラルティーナが継ぐ事になる可能性は高い

「で、なんだ?」
「あのね……」

 わかっていないの? って顔をしているミウ。

「あなた、嫌われてるでしょう」
「…………」
 事実だった。お嬢様と呼ばれるラルティーナからはガッツは嫌われている。このままだとお嬢様が後を継ぐ事は確実だ。子が出来れば別だが……後を継げばツス家のトップだ。ガッツは当然冷たくされるだろう。 リリパットが亡くなればもっと辛いことにもなる。
「どうでもいい、そんときゃそんときだ、死ねと言うなら死ぬよ」
「女に言われるのよ、お嬢様は女よ」
 ムッとするガッツ。ミウは言い方がある意味うまい。女から命令なぞこの男の性格なら認めたくあるまい
「はいはい、小言はそれだけか」
 しかしそれをさらりと交わすガッツ。
「もう〜ガッツ」
 心配している、やはりそれだけ好きなのだろう。
「どうでもいいが、お前、結婚しろよ」
 それお言われたとたんに下を向くミウ。もう30近いミウ。ガッツが逆に心配しているようだ。

 というか本音は俺はあきらめろと言うことだろう。
「じゃあな」
 サッとこの場から去るガッツ。
「ちょっと、待ってよ」
 ミウが追いかける、まるで一人の男性を一途に愛する女のように。

「俺はあきらめろ、合わん、合わんのだ、お前とは」
 すて台詞をかっこよく言い放つガッツ。なぜか背中が大きく見える。頼もしい背中。ミウが惚れているのはここかもしれない。
 ミウは立ち止まった。はっきり言われるとやはり辛いものだ。

「他のいい男見つけろ」
「いや!」
 急に子供の声のミウ。
「お、お前なあ〜」
 せっかくシリアスな展開にやだやだ声では調子が狂う。
「わかったよ、いつまででも追いかけてろ! 評判悪いぞ俺は!」
 どうやら自覚はしているらしい。ガッツは去っていった。

 それをミウはまだじっと……じっと見つめていた。



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