「目狐ですか……やはり」
「そのようだな」
 不機嫌きまわりないゼット少将。椅子に背を垂れてルビアを見ている。ここはゼット少将の執務室だ。
「それで、君に動いてもらいたいのだ」
「わたしに?」
 ルビアが尋ねる。
「目狐は壊滅してはいなかったのだからな」
 まるで落ち度がルビアにあるような言い方だ。

 どうも言い方に棘がある。盗賊団目狐を壊滅状態に追い込んだ立役者はルビア准佐だ。ようはそれが気に入らないのだろう。だから壊滅していないのはお前のせいだといわんばかり。
「それでは私は殿下の警護役からは……」
「いや、それも兼任してくれとの王妃の願いだ。まあ、あとは部下にまかせておけばいいのじゃないか? 殿下はもう自由には城からは出さない、警護の兵士の数も増やすということになっている」
 盗賊が堂々と宝物庫から宝物を盗みだし、一層警護は厳しくなった。殿下の周りもあわただしい。

 王と王妃は徹底的に今回の事件の解決を指示していた。そしてその責任者は王妃である。
 なぜかというと、お城とは大きな家のようなもの。外交や、政治問題は王が中心にもちろん行うが、  城の中のこと、裏方のことは王妃が統制する権限を持たされている。

 実はゼット少将にとってもこれが一番嫌であった。

「とにかく、よろしく頼むぞ」
 頭に王妃が浮かび不機嫌になる少将。
「わかりました。それで……どこの部隊に……」
「それは王妃様に直接聞いてくれぬか? 私の管轄から離れて指示したいらしい」
「……はあ〜」
 妙だ……ゼット少将は立場上ルビアの上官なのだが……

「そういうことだ、専念するのは王妃様からの新たな命令に専念せよ。殿下の警護は形式上君がトップにいればよい……との仰せだ」
「……はい」
 ゼット少将がさらに不機嫌になる。よっぽど気に入らないのだろう。

 ルビアはいそいそと部屋を出て行った……
 
 ――変ね……私が直接王妃様から指示を受けるっていうのも……

 だが、ルビアはなんとなくわかっているようだ。王妃がなぜこのようなことをするのかも。
 ルビアは、指示を仰ぐため王妃の元へ向かった。


「え?……」
 一瞬黙ってしまったポポ。
「ルビア准佐は本日付けで、他の部隊に配属とのことです」
「……移動しちゃうの?」
 困るポポ。エッチの相手が側にいなくなってしまう。あれから一週間。ここは、ポポのお部屋。
 そろそろ身体は求めているというのに……

「ええ、王妃様じきじきの直属になるとか……」
「母上の?」
 めずらしいことだ、直属の部下がルビアの階級でなることなんてめったにない。王族の直属になるのは、普通は大将や中将クラス。悪くても大佐までだ。

「小さな隊を自らお作りなり、その隊の責任者として任務につくと聞いております」
 立ったままクリティーナ少尉の説明が続く。
「ただ、殿下の警護役の任務は解かれずに兼任なされるとか」
「……そう……」
 兼任されても側にいないと意味がない。
 なんてことだ、エッチな肉体が手に届かないところにいってしまう。

「あと、何人か追加で軍の警護の者も増やす予定ですので……」
「……うん……」
 別に警備の数などもうどうでもいいポポ。必要なのはあの人妻の肉体だ。
 あっという間にさびしさが沸き立つ少年。

 ――くそ……

 こればかりはポポにもどうしようもない。将来の国王も、今はじっと耐えるしかない。

 ――あ〜あ……

 ぽっかり穴が開いたようだ。せっかくときめきと気持ちよさを覚えたというのに……
 ポポは不機嫌になる。

「つまんない」
「は?」
 ボソッと言う言葉にクリティーナが反応する。

「寝る」
 と言ってベッドに横になる殿下。それをちょっと不思議に見る少尉。


 (少し、親近感がわいていたのかしら?)
 ごろ寝をしている少年殿下がかわいく見える。寝たまま窓の外を見るポポ。

 ポポは今、なんともいえない思いになっていた。



「私が……ですか?」
「そうじゃ、そなたがリーダーとなって今度こそ目狐の芽を完全につぶせ」
 直立不動のまま、聞いているルビア准佐。椅子に腰掛けながら、厳しい口調の王妃リアティーナ。
 何か強い意思が感じられる。

「噂では、この前の時になぜ壊滅させておかなかった、という、妙な言いがかりをつける男がおるのでな」
「そ、そうなのですか……」
 男……ルビアははっきり誰かは知らない。ゼット少将のことかもしれないが。
 王ではないことは確かだ。王は王妃に頭があがらない。

 ――ま、だいたいの事はわかるけどね。王族同士の小競り合いってところかな。
 ルビアはそう思った。

「王家としても今回のような大胆な行動をされた以上、なにがなんでも叩き潰さねばならぬ。そのためにも、今度はそなたを責任者として力を発揮してもらいたい」
 落ち着いた口調で言う王妃。
 なるほど、どうしてルビアを選んだかがわかる。前回の時は……男が最高責任者だった。
 ルビアは複数いた副官のような存在だった。
「あの男をつけあがららせぬためにも……な」 
「……は、はい」
 あの男とはルビアもはっきりとはわからない。しかし、相づちを打つルビア。

「部下の数など、組織の部隊を早急に決めよ。申請はすべて認可するつもりでいる」
「ありがたき幸せであります」
 ルビアが敬礼した。やりがいのある任務だ。こちらの方が殿下のお守りよりもよっぽど面白い。

 それに……都合もいい。

「それと……ポポの警護役の任も解くつもりはない」
「あ……はい」
 正直解いてほしいのが本音の女軍人。まあ、事情があるのだろう。

「形だけ残し、実質は他の者にまかせるのがよろしいでしょう。殿下の警護役は」
 横にいる侍女がそっとつぶやいた。
「わかりました」
 
 こうしてルビアは目狐討伐隊を作ることになった。殿下の警護役は表向き兼任である。
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