船が出航してから5時間が過ぎた……

「うえ〜うえ〜……」
 酔いがたまらない女軍人。部下の者も何人か気分が悪そうだ。
「大丈夫かい?」
 水夫の一人が声をかける。
「ええ……なんとか……」
 今日は波が少し激しい。天気はいいのだが、揺れははげしいようだ。外に出ても揺れは同じ。しばらくはこれが続きそうだ。思わずルビアは、もう一度船内に戻る。

「軍人さんも酔いには勝てないな」
 他の気分悪そうな兵士を見て笑っている水兵さん。ほとんどが、陸地での専門の軍人ばかりだ。そりゃあ、慣れていない。

 ――はあはあ〜もう〜いや……

 部屋にいても息苦しくなる。ということでなぜか倉庫に来たルビア。ここなら思いっきり吐けそうでもあるからだ。荷物に寄り添うように座り込む。もう身体が辛い。しかし、揺れは止まらない。

 乳は揺れているが……

「う〜ん……まいった……」
 28歳の身体が疲れている。この酔いには勝てない女軍人。ドサッと荷物箱によっかかる。

 すると……

 ガサッ……ガサッ……

 音がする……

「…………」
 何も考えたくないルビア。音がしても本人はそれどころじゃない。
 ところが今度はドンドンと音がする。

 ――え? 後ろから音だわ……
 ボーーとしているルビア。なんで荷物の箱から音が。今度はゴトゴト音!

 ようやく異変に気づいたルビア。箱が動いているように見える。

「な、なに?」
 その瞬間だった。蓋のようなものが開いた!

「あっ!――――――」
 目を丸くルビア。

「うわあ〜やっと開いたよ〜」
 汚れた顔をプルプルと動かすかわいい少年。

「…………で……でん……」
 言葉がつまってしまった。
「やあ〜久しぶりだね」
 ほっぺがよごれたまま、ルビアに微笑む。


 そこにいる少年はまぎれもなく、ポポ殿下であった。


「ふむ……それで出て行ったというのだな?」
「はい……」
 こちらは王妃の部屋。呼ばれているのはラミレスとクリティーナとジト。

「……そうか……」
 王妃は仕方ないといった顔をしている。今日の昼になってもラミレスの屋敷から帰って来ないので、クリティーナとジトが迎えにいったのだ。

「悪い盗賊団を正義のために退治しに行くと申したか」
 半分飽きれ顔のリアティーナ王妃。よくもこういう嘘が平気で言えると思っている。
「はい!」
 語気を強めるラミレス。最初からこれは予定通り。思案したのはもちろんこの少年。親友のためならなんでもするといった顔だ。

「仕方ない……」
 文句を言っても仕方ない。もはやここにポポはいない。それにしても本当に行動派王子だ。
「いかがいたしましょう?」
 側近の女性が言う。
「連れ戻せ……と言いたいところではあるが……」
 何か考えている王妃。少し考え込む。

「ちょうどよい……試練を与えたということにでもしておこうか」
「試練……でございますか?」
 試練というのは、この国の慣習の一つで、王族や貴族の少年や少女がある程度の年齢になったら肝試しのようなことをするという慣例の一つ。
 人間として成長させるために必ず行うことだ。もちろん何をするかはまったく決まっていない。その時の王族、貴族の両親とかが適当に決める。

「しかし、危険も伴いますが」
「監察官の役目でも与えてということにすればよい、危険なことは避けてもらっての。でなければ、またこういうことをする子じゃからな」
「なるほど……」
 行ってしまったのはもう仕方ないという思いの王妃。
 まず、連れ帰すにも大変なのだ。普通の身分の者なら数人の警護をつけて帰らせればよいのだが、王子となるとそうは行かない。現地で正規軍を50名ほどは用意しないと……途中でなにかあれば一大事である。さらに船で大陸を渡っているルビアたち。もう引き返すこともむずかしい。

 だったら一度、いろいろ冒険させてみようというわけだ。

「そなたたち……申し訳ないが、一緒に行ってくれぬか?」
「私たちもですか?」
 クリティーナとジトが王妃を見る。二人は警護役だ。
「うむ……いきなりではいろいろとあるであろうから、数日後ぐらいでよい。そしてポポがある程度納得してから連れて帰らせてほしいのだ」
「……はい」
 二人は軽く一礼する。いきなり旅に出ることになった二人。正直と惑っている。

「まったく……騒がせる子じゃ」
 王妃がため息をつく。行動派の王子を持つと、いろいろ大変である。

 こうしてクリティーナとジトもわがまま王子に振り回されることになった。
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