――おお、こんなふうになってたのかよ。
 ラミレスが感心している。初めての経験。
「すごいだろ?」
 自慢するポポ。
「間違いなく戦争になった時のためのモノだと思うよ。」
「やっぱりそう思う?」
「でも、たしかにすごいなあ」
 再び感心するラミレス。ホントによく出来ている。

「こっちの方は?」
 二手に分かれている片方の方に行こうとした時、
「こっちこっち」
 殿下にうながされる。仕方なくラミレスは二手に分かれている片方はあきらめた。かなり迷路状にもなっているようだ。だが殿下はもうこの迷路を知り尽くしている。こういう事を覚え飲み込むのはやはり早い
 若い証拠だ。

「今日ははルビアの……だろ?」
「ああ、本当にいないのかよ?」
 ラミレスは少し心配している。城の事情まではよく知らないラミレス。
「大丈夫だって」
 そう言ってするすると前かがみになりながら狭い通路を抜けていく。

「おっ、ここだよ」
「真っ暗だな」
「月の光もないからね」
 殿下はラミレスに部屋にそっと入る場所を教えた。

 ――すごい……よくここまで作りこんでるなあ〜

 本当に分からないように作ってある。ラミレスは感心するばかりだ。二人はゆっくりと降り立った。






「名前は?」
 ルビアが尋ねる。男たちがルビアを見る。屋敷から出てきたルビアを見て何かを察知したようだ。
 軍人……とピンと来たのだろうか?そのわけはサーベルだった。ルビアが持っているサーベルは軍人がしかもそれなりの地位がある者が持つことを許された剣……
 軍人とわかればこういう時、まず見るのが階級章だ。上下関係の厳しい軍は、階級でがらりと立場が変わる。

 ――が、今のルビアは私服。しかしこの屋敷の大きさからそれなりの人物と酔っている男たちは確信した。

「どちらさまで?」
 剣を抜いている男の側にいた一人がルビアに聞く。なかなかいい顔をしている。苦みばしったいい男とはこの事。剣を抜いているまぬけな男よりずっと印象はいい。

「私の名はルビア、皇太子殿下の警護長を務めている者だ」
「!!――
 剣を抜いた男と残りの男が驚く。立場の違いがはっきり見えてきたからだ。
 皇太子殿下の警護長。それなりの階級を持っていないと任命はされない。

 ――この女が……ルビア?……かよ。まいったね、こりゃ。

 いい顔をしている男は一瞬唖然とした。だが、剣を抜いた男はまだ剣を引こうとはしない。

 ――なんてこった、どうしようか。こりゃあ〜明日から困ったぞ……

「どうした、そちらも名乗られよ。うちのメイドに手を出すぐらいの男たちだ。さぞかしそれなりの連中とお見受けする」
 嫌味たっぷりのルビアの言葉。メイドたちも、この状況を見守っている。

 ――言ってくれるねえ〜どうやら、なかなかの人物のようだなこの女。
 仕方ない……ここはひとつ。

「おい、収めろよ」
「し、しかし」
「しかしもくそもあるか!上官の言うこと聞けないのかよ!」
「ハッ、申し訳ありません」
 まぬけな男が剣を収める。どうやら我に返り自分が何をやっているかわかったようだ。

「私の名はジト、この度中央へ赴任した者であります
この剣を抜いた者は私の部下の一人……申し訳ありません」
 ピクッとルビアの眉が動く。態度が変わったことだけではない。

 ――ジト……ジト?

今 日、この言葉を聞くのは二回目だ。殿下のお守りの任務が終わった後、ゼット少将から呼び出され、
ジトという人物が新たに加わることになったと言われていたのだ。

 ――この男が……ジト……

 なんとルビアの前には明日から部下になる男が立っていた。


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