「解放?」
「そうよ、よかったわね」
 ダークエルフ娘がセイキンに言う。

「マメリアお嬢様もだな」
「もちろん、ただ、マレイアスは別よ」
「え?」
 驚くセイキン。
「それが条件なの、わかる?」
「…………」
 納得いかないセイキン。
「嫌なら、マメリアは殺すわ」
 そう言われるともう手が出せない。
「そういうこと、さあ〜行きましょう」
 横にいるマレイアスに聞こえるように言うダークエルフ。それをマレイアスが聞かないわけがない。
 じっと見ている女騎士。

「マレイアス……」
 振り向くセイキン。いきなり自分とマメリアは解放される。そんな事実に戸惑っている。
「行くんだ、それでお嬢様が助かるなら、こんなにうれしいいことはない」
「……うん」
 うなずいた少年騎士。そのままうつむいてダークエルフたちと部屋を出て行く。結界の出口へ案内するのだろう。


 ――私だけ……か。いや、ランカ……あの人は……

 ランカは残された。インリのお気に入りらしいのだ。せっかくサルンが解放の方向へ向かっていたというのに……
 
 ――何がなんでも私を手に入れようというのか……しかし……
 ならなぜ、人質を取らないのかと思う。

 考えるマレイアス。

 ――何を企んでいる……まさか、嘘?

 交錯する思惑。だが、考えてもまとまらない。凌辱された身体をちょっと震わせながら、マレイアスは考えていた。



「こちらです」
「うむ……」
 ブックル老人が、部屋に入っていく。その部屋には……

 あのラブゼンとエルディーニがいた。リーダーはどうやらラブゼンのようだ。
 一番年長ということでだろう。

「初めまして、ラブゼンと申します」
「よく来なされた……立派になられたの、二人とも」
 ブックルが低い声で答えた。
「今回のことは、お詫びのしようがございません」
「その事は後でよい、今はなんとしても……」

すると……

「ブックル様! ブックル様!」
 いきなり部屋に数人の男達が入ってきた!

「なんじゃ、客人の前だぞ!」
「お喜びください! お嬢様が帰ってまいりました!」
「な、なんと!――――」
 椅子から立ち上がる老人。

「は、話は後じゃ! 後じゃ!――」
 顔を見合わせるラブゼンとエルディーニ。老人は一目散に娘の元へと向かっていった。


 眠っているマメリアお嬢様。横にはボロボロの表情のセイキンがいる。

「おお、マメリア! マメリアよ!――」
 叫ぶブックル。これが目的だったのだ。お嬢様が帰ってくることが。
 
 寝ているマメリアを抱きしめる!

「眠っているだけとのことです。しばらくすれば目も覚めると思われます」
「うん! うんうん!」
 もうこれだけで十分という爺さん。感激している。しかし、セイキンは悔しさで震えていた。
 それに気づくブックル。

「セイキンよ……マレイアスは……どうした?」
「う……ううっ……」
 土下座のようにして泣き出すセイキン。周りの者達もシーンとなる。

 マレイアスはいない。

「そうか……」
「うわあああああっ!――――」
 泣き出すセイキン。自分のあこがれの女騎士は……


 あの卑劣なダークエルフ元王子に……


 ――マレイアス……
 ブックルはまた深刻な顔をする。その様子を階段でラブゼンとエルディーニはじっと見ていた。

「どうやら、事態は少しよい方に向かったようだな」
「ええ……」
 グッと目に力をこめるラブゼン。いよいよサルンと対決が迫っていた。
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