サルンの手が剣に変化した! 自らの手で女騎士を、元后を葬ることを決意する!

 マレイアスの剣とサルンの腕の剣が絡み合う!
 ガキイイイイイイいいイイイイイイイイッ!!――――

「……う、うおおおおおおおおおおおッ!――」
 怒り狂う少年! 一気にマレイアスを押し戻す! ダークエルフの王族は力も非常に強い。その気になれば、首を絞めて殺す事も容易だ。サルンの逆の手がマレイアスの首を掴んだ!


(絞め殺す!――)
 戸惑いなど、一切ない! ただただ、殺すのみ! 存在を消し去るのみ!

 しかし……サルンの腕は……


「は……はあああああ?」
 自らの信じられない行動に、苦しむ……

(て、手が……てがあああああああああああああっ!――――)

 手が……動かない。首を掴んだ手が……


 やさしく首を包む……

「こ、こんな! こんな馬鹿な!――――」
 マレイアスが、逆にその手を掴んだ……

 そしてその手を……



「ウぎゃああああああああああああああっ!――――」
 鉈のように振り下ろされ、切り落とされた!


 飛び散る鮮血! 悲鳴を上げるサルン! だが、この悲鳴は痛みではない!


 痛みの悲鳴ではない!

 (おおおおおおっ!――うそだあああああああああああっ!――)

 信じられない行動に、恐怖を覚えるサルディーニ。
 続いてマレイアスが心臓を狙う!

「はあああああああっ!――」
 引く! 慌てて引くサルン! 恐怖を覚える少年。


 あの少年王が……引いた……恐怖で引いたのだ……
 無敵に見えたサルディーニに襲い掛かる現実。

 上空に逃げるサルン!
 片腕にされた少年。


(はあ〜はあ〜)
 汗がどっと出る。冷や汗だ。父との戦いでさえも出なかった冷や汗が。
 それが、あの女騎士ごときに……

 プライドが許さないと言っている。冷や汗を出す事を拒否したいプライド。
 女騎士が見上げる。逃げた少年王を……

 その表情にいらだつサルン!


「おのれ! そんな目は許さない! その目は……許されない目だ!」
 余裕の目といえばいいのか? その目が気に入らないサルディーニ!

 だが、心は一回逃げよと言っている。この信じられない現象から逃げるには、遠方に離れることだ。
 周りの王族エルフは、未だに回復中だ。誰も追える者はいない。マレイアスも飛んでいけばどうすることもできない。

 逃げることを当然考えるサルン。しかし、プライドはそれを選ばなかった……

(逃げる? この僕が? 逃げる? )

(そんな選択肢はありえない! あってはならないことだ!)
 自問するサルン! そしてもう一度黒い玉を天に作り始めた……


「やってみな……サルン」
 剣を構え見上げるマレイアスの一言。
「……なんだと?」
 上空に逃げたサルンだが、今の言葉はなぜか、はっきりと聞こえた。


 不快だ、非常に不快であるサルン!

 プルプルと震える少年。怒り狂った精神は、マレイアスを粉々にしろと命令している。その命令に再び笑うサルン。不気味な悪魔の笑みが出る。

 言葉に対抗する最高の笑みだ。

「消してやる……この森ごとすべて……消し去ってやる!――――」
 もはやマレイアスしか見えていないサルン。さきほどよりもさらなる巨大な玉を作り出す。無駄だとは思わない。いや、そういう状況じゃあない。

 怒りの黒い渦のかたまり……身勝手なわがままな玉が……
 マレイアスとその一行に打ち落とされようとしていた。
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