インリとライファンが戯れている頃、こちらでは……

「う〜む」
 霊媒師と女軍人の報告に、顔が暗くなるエルディーニ王。これはもうただ事ではない。
「いかがしましょう」
 ランカが促す。

「ランカ、これは本格的に調べねばなるまい」
「はい」
「……ならば……」
 そう言って、チラッとツエペリ霊媒師を見る。

「ツエペリ殿、そなたには話せばならないようだ」
「ぜひ、お聞きしたい。死体の名前さえ教えぬと言われてはどうしようもないですから」
 老人には、腐乱死体がインリの偽者とさえ言っていない。とにかく、インリという名前さえ出したくないのだ。

 ダークエルフの国民には、極悪人サルンとミシェルン以下盗賊組織の者たちは、英雄マレイアスによって成敗されたとなっている。あくまで極悪人サルン、決して王子のサルディーニではない。

 ミシェルン以外の娘たちの名前も、公表はされていない。

 サルン、ミシェルン以下、関係者はすべて死んだ。
 その名前さえ、存在さえ忘れたいのが王族の本音であった。
 そうやって記憶にさえ消したいという意図がある。

 ただの悪党が人間の女騎士に倒されたで終わらせたいのだ。

「その死体の名前はおそらくインリという女性のものだ」
「人間のですか?」
「いや……インリはわがダークエルフのものだ」
 それではおかしいと思う老人。

「死体は間違いなく人間の女性のもの。それで、インリという者がダークエルフというのもおかしい話ですが……」

 言われると確かに……

「ですが、あの時……」
 嫌な思い出が蘇る。ちょっと間を置いて言うランカ。

「私とインリしか知らないようなことまで知っていたのです。あの腐乱死体になる前は」
「なるほど……のう〜」
 考えるツエペリ。

「では……人間の身体に、エルフのインリという意識が乗り移ったというなら、つじつまはあうのだが」
「そのようなことは可能なのか? 私は一度死んだダークエルフが、生き返るとはとても思えない。ましてや、骨になった者が……」
 王としては信じられない思いだ。
 そう言った時、ツエペリが答えた。

「その骨のなのですが」
「ん? 骨がどうしたのだ?」

 ツエペリが説明を始めた。重罪を犯した者の骨は粉砕までされ、通常の墓にも入れてもらえず、戦犯扱いされる。
 なぜかというと、ダークエルフの骨には、特殊な力があり、魂はしばらくくっついているというのだ。だから、重罪を犯した者の骨は粉砕されて、葬られる。もしも、その者たちが、蘇がえると大変なことになるからだ……と。

 だからこそ、そこまでやるというのが……霊媒師の間では通説。

 しかし、王たちや一般の者の考え方は違った。
 ただ罰を与える、一般の死人扱いはしないという見解だけで粉々に砕いていたのだ。
 魂がしばらく宿っているなど、考えてもいない。
 

「そのような意味合いがあるのは知ってはいる。が……」
 霊媒師たちの通説は、今まで御伽話のように聞き流していた王。
 いや、庶民もみな同じだった。
「はい」

 さらに……

「われわれの世界では、死人を生き返らせ、それを確立した手法として残した者は過去にもおりません。しかし、人間界には、死人返りという邪法があるとか……」

「なに?」
「死人返り?」
 ランカがビクッとする。嫌な展開だ。

「死人返りとは、その名のとおり、死人が生き返るということでございます」
「それを誰かが使ったと……申すのじゃな?」
「はい」
 真剣になるツエペリ。ここは得意分野だ。

「しかし、それは人間でのこと。ダークエルフにも通じるのか?」
「そこのところは……なんとも。ですが、最近関連のある噂を聞いたことがあるのです」
「噂?」
 ランカが問う。

「数年前に、人間の世界で死人返りの邪法を使った者がおるとか」
「本当ですか?」
「うむ」
 ランカにとって、嫌な言葉だ。死人返りという言葉は。

「最終的に学会から追放されておるのです、その者は」
「……なるほど……」
 エルディーニ王は考えている。そしてこう言った。

「ならば、それについても調べなければなるまい」

 こうしてランカとツエペリは、深く介入していくことになる。



 ランカたちが死人返りという言葉を覚え始めた頃……

 こちらでは、インリが何か求めている。
「武器がほしい?」
「うん」
 少年先生にお願いしているインリ。

「ランカとかいう女軍人捕まえるためか?」
「そう……」
 インリのランカ拿捕作戦は再び始まったばかりだ。あれから、身体の方も自由になった。
 今回は二週間で完全体になったのだ。驚くスピードだ。

「君は執着心がすごいな」
「なんでもしたいことやれって言ってたでしょ」
 言い返す。

「……まあ……な」
 一人の女に執着するしつこさ……インリらしい。せっかく生き返ったのだ。
「武器とは違うが、パワーなら上げれるかもしれないな」
「パワー?」

 ウッズ先生が言うのは、薬。それを飲むとパワーが上がるという。

「僕も追われている身でね。自己防衛が必要なんだ」
 学会から追放されたウッズ。本来なら、処分を受けるはずだったが、学会には、もちろん出頭を拒否。

 以来、追われている。今、捕まえられたら実験どころか、一生軟禁されて何も出来なくなってしまう。学者にとって、これは死刑に等しい拷問だ。

 だから、ほとんど外出しない。世話は、すべてライファンに任せていた。

「それ飲めば強くなるの?」
「保障はしないけどね。後、人間用だ。どうなるかもわからないよ」
 先生が試した時は、ちょっとだけ力がみなぎったらしいとのこと。

「いいわ、試してあげる」
 そう言って飲もうとするインリ。

「おいおい」
 さすがにびっくりしているようだ。何のためらいもなく飲もうとするからだ。
「……本気なんだな」
 インリの行動を見て感じ取った先生。

「そうよ」
「……ふう〜わかった。もっと安全で凄い奴作ってやるから、それは待ってくれ」
 気迫に押されたようだ。インリはどうしてもランカに勝てる力がほしい。この肉体は、生前の肉体とほぼ同じ能力は持っている。しかし、インリ単体では、女軍人のランカには勝てない。サルンのようにはいかないのだ。

 ウッズ先生は、本格的に作り始めた。
 自分の身を守るためでもある。

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