インリは死人返りで蘇ったという。この邪法は、限られた能力を持つ人間だけが出来るとのこと。そして、その邪法でインリはよみがったというのだ。 「……はあ〜」 そう言われてもすぐには信用できないのは当然だ。 「聞きたいこと聞きなよ。すべて答えてやるぜ」 偉そうに言う少年。 「私……身体がどうして……」 「肉体のことか?」 うんうんとうなずく少女。 「元の肉体は、必要ない。その身体は他人のだ」 「他人?」 「人間の女の身体だよ」 「ええ?」 びっくりするインリ。人間の身体が自分に? 信じられない…… ウッズ少年が言うにはこうだ。 死人返り邪法は、それを使えば死人が生き返るといわれていた。 もっと詳しく言うと、他人の死体などに魂を寄生させて、生き返らせるというのだ。 「…………」 もうびっくり仰天。 「だけど、人間の魂ではどうしても成功しなかったんだ。そこでダークエルフの魂と骨を使うことにしたんだ」 「はあ〜」 「そしたらさ、これが大成功!―― くはははははっ!――」 笑うとしわがものすごい。その表情におびえるインリ。 ――こ、怖い……なんなのこの人。 ダークエルフの骨にはある力があるらしい。人間と違い、粉砕しないで埋葬した場合、しばらくは魂は、その骨にくっついているというのだ。その時に、邪法を使って、他人の肉体に乗り映させるらしい。 「でも……」 「でも、なんだ?」 今度の疑問は、顔だ。どうして骸骨状態から顔がわかったのか? 「それは君の骨と魂が覚えているんだよ。顔だけじゃない、身体の特徴から、性格までもね」 「ええ?」 また驚くインリ。 「ダークエルフの意識の力は、ほんとにすごいものだ。ライファンも同じだけど」 チラッとライファンを見る。こちらはダークエルフの特徴の長い耳がある。 ――この人も……わたしと同じ? 「とにかく、元気になってよかったな。感謝しろよ」 偉そうにまた言う。 「でも……どうして……」 「ん?」 「どうして、私を?」 確かにそうだ、どうしてインリを? 「君が、あの名も亡き共同墓地の中で、一番魂の力があったから選んだ。ただそれだけだ」 冷静に言うウッズ。 「……そうなのですか?」 「君は選ばれたんだ。なぜ死んだかは知らないけどさ」 「私……わたしは」 何か言おうとするが、声が出ない。 「過去のことなんか俺にはどうでもいい。それより落ち着いたら、好きなことしなよ」 「好きな事?」 「そう、したいことをな。どこまで生きられるかは保障しないけど」 勝手に生き返らせておいて、保障なしとは…… こんがらがるインリ。いきなりの展開だ。そりゃ仕方ない。 「後、しばらくは僕の側にいてもらう。僕は君のデーターがほしい。必要なんだ」 生き返ってどれくらいまで生存できるかとかの資料にするつもりらしい。 ようはそれが目的ということだ。 「…………」 正直、気分はよくない。こんな目的で生き返っても…… 「文句は言わせないぞ。僕は命の恩人なんだからな」 恩着せがましい少年。勝手に生き返らせて、命の恩人だから言う事聞けという。 ――な、なによ……こいつ。 ちょっと前の意識が、はっきりしないインリならこうは思わなかっただろう。 しかし、今ははっきりしている。あのランカを責めた性格も蘇りつつあるのだ。 あのプチサドが目覚め始める…… こうしてインリは生き返った。死人返りという方法で。まだまだ聞きたい事はたくさんあるインリ。しかし、今日はこれぐらいにしてくれと言われた。 そして一晩中、考え込んだのだった。 一ヵ月後…… 「では……一度解散ということで」 「うむ」 ダークエルフの王が、ランカに対して何か言っている。 「進展がないのなら意味はないからな」 百名の軍人で捜索にあたらせていたのだが、一向に進展がない。 そこでランカと数名だけで、今後も調査することになった。 「ミルゼバに帰ったら、そこの部下を使うがよい。そなたの上官には話は通しておく」 「ありがとうございます」 進展は一向にない。さらに今回は犠牲者もいない。こういう場合、一旦、打ち切りになるのは仕方ない。 「ただの狂言ならよいのだがな」 王も気にはしている。しかし、一ヶ月以上何もないとなると、そう思いたくなるものだ。 「その方がありがたいです」 ランカにとってもそっちの方がよっぽどいい。 しかし、現実は違ったのだった。 一人の少女が、なにやら大木で練習している。 「おりゃあああああああっ!――」 インリだ。あれから一ヶ月。体調もすごくいい。なにも不具合はないらしい。身体を鍛えているのだろうか? ――動きがやっぱり遅いわね。 元、ダークエルフのインリ。生き返らせてもらったのはいいのだが、一つだけ不満がある。それは、肉体が人間の身体ということだ。 ――触手攻撃もできない。パワーも使えない。 ダークエルフなら、みなが持っている触手攻撃とパワー。 これがあれば、女ダークエルフでも、屈強な男の人間に負けることもない。だからダークエルフは強い。ところが、人間の身体にはそんな機能はない。いかに、魂と骸骨で蘇ったとはいえ、こればかりは無理であった。 インリの記憶には、ダークエルフの本能がある。ダークエルフたちは、非常に好戦的な民族だ。つねに男女とも戦う事を義務付けている。その本能が、この身体は物足りないと言っているのだ。 民族の本能がうずく。 「……ふう〜」 肉体をいじめるインリ。こんなに昔は練習などしなかった。元の身体が、ある程度出来上がっていたからだ。これが限界と思う。 ――人間の身体じゃね〜 そう思っているとライファンがきた。こちらは、ダークエルフの身体。 ライファンも死ぬ前は、ダークエルフ。死んだ理由は、誰かに後ろから刺されたとのこと。未だに犯人はわからない。ライファンは即死だったらしい。 そして、名も亡き共同墓地に入った。 その時、ウッズ少年に邪法で蘇った。 さらに、ちょうどダークエルフの死体も調達できた。 だから、ライファンは、今でもダークエルフの能力を使える。 「元気?」 「ええ……」 もうすっかり慣れたインリ。というか慣れるしかないのだ。 「あなたはいいわねえ〜 エルフの身体でさ」 うらやましそうに言う。こういう口もきけるようになった。 「ふふふ」 笑って返す。 「鍛えないと、不安で不安で」 力がないということに不安らしい。最初は肉体を鍛えることにも抵抗があった。いっ壊れるかという想いがあったのだ。しかし、少年学者によれば、普通の鍛え方なら大丈夫といわれている。 「先生が身体のチェックしたいから来てって……」 「うん」 「どう? 今後のこと。決めたの?」 「……今後のこと……か」 自由に生きろと言われているインリ。しかし、いきなりそんなこと言われても困るのだ。 本当はあの世にいるはず…… 「あなたは……どうなのよ」 「私は、ウッズ先生の助手として生きるの」 十歳以上も年齢の違う少年を、先生とあがめているらしい。 「……そうだったわね」 「それと、自由に生きるのはいいのだけど」 釘を刺すライファン。 「わかってるわ、定期的に会いに来いってことでしょ」 「約束破れば……あの世いきよ」 ふふっと笑うインリ。 ――命を人質か……まったく。 だが、正直、何をやればよいというのかがわからない。 いや、考えていることはあるのだが。 「それと……もう話す気になった?」 「ああ……うん」 「あら?」 以前から話そうと思っていることがある。しかし、聞けば仰天するだろうと思い、心に閉まっていたことだ。 「教えてあげる……聞けばダークエルフの国は大混乱よ」 「ええ?」 きょとんとするライファン。 「行きましょうか? 話してあげるわ」 不適に笑うインリ。この少女は、知っている。すべてを知っているのだ。 あのサルンとの大決戦を知っているエルフ…… 王族が徹底的に封じ込めている真実……を。 盗賊ムスメの中でたった一人の生き残り。 その生き残りが、徐々に息を吹き返している…… 二人は、ゆっくりと少年の下へと向かった。 |
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