翔子が生徒会長に会い、水泳部副キャプテンがマゾ調教受けてから一週間。

 翔子は昼休みに亜津子に呼び出されていた。
 生徒会に入ることの詳細を聞くらしい。
 如月翔子は、三回生のクラスに行くのは始めてだ。
 一回生は一階、二回生は二階、三回生は三階に教室がある。

 ――ここが……三回生の花園ね。

 周りはみな先輩ばかり。当たり前だが。

 ちらちらとこちらを見ている女学生もいる。翔子が二回生というのはすぐにわかるのだ。
 なぜなら、二回生と三回生では制服が違う。特にラインが入っている色と数が違うのだ。
 三回生は三本、二回生は二本……というように……

 ――わざわざ三回生のところに呼びつけるというのも……
 思惑ありありと思うお嬢様。

 亜津子がいる教室へ向かう。するとなにやら女性の集団が……

「あなた? 誰?」
「如月翔子といいますわ。亜津子さんはいるかしら?」
「ああ……ちょっとまって。 亜津子! 翔子って子が来たわよ」
 群集の中に入って亜津子に伝える三回生の娘。

 その群集が掻き分けられていく……

 すると一番向こうで優雅に座っている三毛亜津子がいた。その周りは取り巻きのように人がいる。制服だらけの状況だ。

 これは威圧感がある。この中を平気で歩いていくのは……

 と思っていたら、さすが翔子。
 平気で歩いていく。抜群のプロポーションを見せつけながら……
 その様子にちょっと驚く取り巻きたち。

「亜津子さん、何か用?」
 そう言った時、ぐるりと囲まれた。これはプレッシャーになる。
 だが、当のお嬢様は平気。

「わざわざ来てもらって悪いわね。早速だけど、あなた、生徒会に入る気あるの?」
「当然、ありますわ」
「そう……美知から聞いたから、ちょっとびっくりしちゃったのよ」
 微笑む亜津子。心ではどう思っていることやら。

「で、私にはどういう役をくれるのかしら?」
「さあ〜 それは……美知が決めるんじゃないかしら?」
 どうやら亜津子は怒ってはいないようだ。今度は事前承諾があるからだろう。
 それに生徒会長の意向もあるのだ。さすがに強くは言えない。さらにこれは都合がいい場合もある。

「ちょっと、あなた? いきなり活躍できるとでも思ってるの?」
「あら、出来ないのですか?」 
 とぼけて答える翔子。いきなり入って重要な権限など持てるはずがないのはあきらか。
 まして二回生だ。わかって言っているのだろう。

「な〜に、この自意識過剰娘は?」
 笑い始めた娘たち。しかし、まったく屈しない。
「本当のことを申したまでですわ」
「なっ?」
 
 平気で言い返す翔子にカチンときたらしい。亜津子は平然としているが。

「あなた、結構生意気ね〜 そんなことじゃ、この学校で楽しく過ごせないわよ〜」
 脅しが始まった。
「私はこの学校に遊びに来たのではございません。将来の布石として学びにきたのです」
「なっ……」
 堂々と言う翔子に驚いた三回生たち。

「あんたね〜 口の利き方に気をつけなさいよ」
「利きかた? 私、一応先輩方に敬意を示して言っているのですけど」
「なに言ってるのよ、そういう言い回しがいやみたらしのよ!」

 胸ぐらをグイと掴まれた!
 しかし、一歩も引かない!

「離していただけませんか? 服が汚れますから」
 掴まれた胸の部分の相手の手を、掴み返す翔子。睨む!

「やめなさい」
 亜津子が止めた。すると掴んでいた手が少し緩む。その手をグイと掴む翔子。

 掴んだ先輩と掴まれた後輩が、対峙する……
 すると翔子がゆっくりと手を離した。笑顔でだ。
 それにちょっと怒りが緩和された三回生。

 ――さすがね……翔子。
 翔子は本物だ。この強い意志は見かけだけではない。再確認。

「雰囲気が悪いみたいなので、失礼します」
 そう言ってクルリと振り向く。が、前は三回生の壁だ。ところが、翔子はその前ぎりぎりまで迫る。

「先輩方、どいていただけませんか?」
「亜津子、このまま帰らせていいの? こいつ」
 こいつと言う言葉にむかっときた翔子。その時……

「翔子、生徒会に入ったら……私の味方、してくれるのかしら?」
 その言葉にクルリと振り向く。そして亜津子を軽く睨んで言った。

「それは、私が自分で決めることですわ」
 人の意思に従うつもりは、さらさらないようだ。

「テニス部の先輩の味方してはくれないのね?」
「テニス部はテニス部、生徒会は生徒会だと思っています」
 言う言う翔子。
「あなたが私の意向に従わないなら、私は生徒会入りは反対するわよ」
「それは生徒会長の意向を無視するということかしら?」
 返す翔子。今度は生徒会長を出してきた。
 口だけは達者。いや、身体も、心の達者である。
「ちょっと、こいつ……」
 また切れかけた三回生が出てきた時!

「まあまあ、待ちなさいって、結構かわいいじゃん」
 ニコニコ笑いながら言う女学生が一人。すると一気にその場がなごむ。
 ポニーテールの髪がゆらゆらとゆれる。ムードメーカーのようなキャラだ。

「ねえ〜亜津子」
 ポニーテールちゃんの一言で場が変わった。
「そうね……ぜひともこの亜津子に協力してほしいのよ。テニス部の先輩と後輩の仲として」
「…………」
 黙っている翔子。対立している二人に仲もへったくれもない。
 そしてなんとなく止めに入ったポニーテールの娘を見る。

「道を開けてやって……みなさん」
 亜津子が微笑んで言う。どうやら今回はここで終わりのようだ。

 すると、今度は……

「ほらほら、亜津子お姉さまが道を開けなさいって言っているわよ」
 今度は亜津子の言葉を利用し、お姉さま扱いだ。次から次によく出てくる。

 あきれ返った三回生たち。
 翔子はこうして堂々とやりあい、教室を後にした。



「気に入ったわ、あの娘〜」
「……そう……あなたにそう言われると……困るけど」
 ポニーちゃんの言葉に納得する亜津子。
 するとチャイムが鳴った。

「さあ〜みなさん、授業よ」
 亜津子がみなに解散するように言う。その横でポニーちゃんがつぶやいた。

「あの子、利用したら? 選挙に使えるわよ」
 気に入ったのは選挙利用のためか?

「あなたがそう言うなら……」
「その方がいいって、個人的に気に入ったから」
 うれしそうに言うポニーちゃん。

「優実がなんていうかしらね?」
 椅子に脚を組んで微笑む亜津子。
 どうやら、このポニーちゃんは一目置いている存在らしい。
「今度、テニス部に遊びに行くわね。じゃね〜」
 そう言ってポニーちゃんは去っていった……

 ちょっと威圧を与えるつもりだった三毛亜津子。しかし、返って存在感が増したのは翔子だ。
 それに新たな味方もつけたかもしれない。
 
 こうして女たちの休憩時間戦争は終わった。


 
 ――まったく……
 さすがに胸ぐらを掴まれた時は焦った翔子だったが、引かなかったのはさすがでもある。

 ――にしても……あの人は……誰? 少しは理解があるようね。
 ポニーテールの先輩をちょいと考える。
 テクテクと二階に行く通路を歩く。するといきなり後ろから抱きつかれた!

「翔子〜元気〜?」

 なんとあの丸山優実だ。通路には数人が歩いている。

 ――ちょっと! 何でこんな時に……
 と思う翔子だが、ここは建前上にこやかに、

「元気よ、優実」
 クルリと振り向き、不気味な笑いをかける。その様子を何気なく見ていく女学生たち。
 そして二人っきりなった時だ、

「ちょっと!」
 いきなり胸を掴まれた!

「なあによ〜」
 笑いながら言う優実。すると手を掴む。

「離しなさいよ」
「亜津子お姉さまの所に言ってたの?」
 睨みながら言う優実。まだおっぱいを離さない。

「生徒会に協力しろとか言っていたわ」
「協力してくれる?」
 グイとさらにおっぱいを掴む!

「あいた!」
 手をつねられた!

「ちっ! そんなことだから敵ばかり作ってるのよ!」
「うるさいわね」
 フンと鼻で笑う翔子。

「協力しなさいよ、その方が身の為よ」
「亜津子お姉さまの言うこと聞かないと……いずれは辛いことになるわよ」
 脅す優実。

「そうね〜 あなたと私の立場を入れ替えてくれるなら、考えてもいいかな?」
 うふふと笑うお嬢様。

「な、なんですって?」
 意外な言葉に驚く。そしてむかつく!

 ――翔子……あなた……
 またにらみ合いだ。この二人はこうする運命なのだろうか?

「もうすぐ授業よ」
 手を振り解き、さっさと歩いていく翔子。この強い態度に優実は言い返せなかった。

 ――翔子……いずれ……覚えていなさい。
 優実はそう思うとにやりと笑う。そうして、ゆっくりと教室へ向かっていった……

 いよいよ翔子は生徒会にデビューする。

 どのようなドラマが待っているのだろうか?
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