学園のお昼…… お昼休みは、楽しい食事の時間でもある。 翔子が友達の何人かと食事を取っている。 この学園ではお昼ごはんは、弁当でも、食堂でもOK。 弁当持って、食堂に行って一緒に食べるなんてのもよくある。 今日は弁当を持って来た子に合わせて、食堂から幕の内弁当を購入。 一緒に教室で食べていた。 そこに優実がやってきた。 ――ちっ、ここで食べてたのか。 会いたくないと思っていても、同じクラスだ。そうは行かない。 さっと出て行こうとすると…… ――あっ…… 向こうから三回生の集団が…… ――み……三瀬麻里華…… 亜津子の最大のライバルがゆっくりとこちらへ向かってくるではないか! 「あら……優実、久しぶりね」 「ど、どうも」 軽く頭だけ下げる。 「いつもながらイソギンチャク、お疲れ様」 横にいた別の三回生の女学生がいやみたっぷりに言う。 ――くっ…… だが言い返せない。 「ところで、如月翔子って子、いる?」 「翔子?」 ――翔子に何用よ? 顔色がまた変わった丸山優実。 「テニス部に所属しているのでしょう? 教えてくださらない?」 「……何の用です?」 抵抗する優実。 「聞かれた事にだけ、返せばいいのよ。どこにいるの、翔子って子」 「あ、あそこですけど」 首をクイと振る。 その方向に顔を向ける麻里華。そこには食べ終わってのん気にしている翔子の姿がある。 ゆっくりと教室へ入っていく三回生の集団。 すると、二回生の子達が、さっと軽く会釈した。 緊張が走る! 「こんにちは」 「こんにちは」 先輩には挨拶するのが慣わしだ。特に生徒会の人には…… その中を優雅に歩いていく三瀬麻里華副会長。 そして翔子の近くに来た。 「あなたが如月翔子?」 目の前にきた。 「え?」 さっと目を向ける。 そこには、生徒会の副会長がいたのだ。 「ちょっといいかしら? お話をしたいのだけど」 「…………」 いきなり来て、誰だと思った翔子。実は副会長の顔はまだ知らないのだった。 ただ、生徒会長の役員欄には写真は載っているが。 だが、この不気味な気品に、ピン来た。 「私を誰だかご存知?」 「……生徒会の方ですか?」 「まあ、あきれた! あんた、生徒会副会長の顔、知らないというの?」 横にいた取り巻き先輩が、罵倒するように言う。 翔子以外の二回生の子は、みな引きつってだんまりだ。だが、この如月翔子は違う。 ――はは〜ん、コレか……例の副会長というのは。 スッと立ち上がる翔子。まるでおっぱいを見せ付けるように…… 「ごめんなさいね、私、一度も会った事ない顔までは覚え切れませんわ」 そりゃそうだ。 「生徒会手帳に写真載っているでしょう? 何言っているのよ」 また取り巻きがうるさい。手帳には確かに載っている。 だが、顔を覚えるのはやはり会わないと…… 「写真と現実は違うものですわ」 「こ、こいつ……」 「あははは……」 笑う麻里華。 「面白いわねあなた、では聞くけど、写真と現実はどちらが綺麗かしら?」 「それは……」 いきなり究極の選択だ。どっち言っても多分嫌味を言われる。 「今、この場にいるお方と思いますわ」 「まあ、うれしい。ちゃんと場をわきまえているようね」 「いえ……この場にいるのは、私も……含んでいるのですけど」 切り返す。 「なんですって?」 麻里華お嬢様の顔色が変わった。さすがは翔子、いきなりこんな態度で来られて、黙って従うわけがない。 ――この子…… ちょっと考える副会長。さらに切り返す。 「では聞くけど、この場にいる私とあなた、どちらが綺麗だと思うのかしら?」 「それは、比べると困るのではないでしょうか?」 あきれる周りの二回生の子達。決して素直に選ばない翔子。 「翔子、この学園では先輩を敬うルールがあるのよ。あなたのやり方では、長生きできないわよ」 「そんなルールは壊すべきですわ」 「なっ!」 取り巻きもびっくりだ。 ――なるほど…… にらむ麻里華。こいつは危険と感じたらしい。 「いい度胸してるわね、あなた。気に入ったわ」 「…………」 「あなた、亜津子と対立してるんでしょう? 長生きしたいなら私と組まない?」 「え?」 今度はお誘いだ。それをちょっとびっくりの目で見る優実。 「あなたが気に入ったのだけど……嫌かしら?」 カジュアルウェーブなロングの髪が、怪しく誘う。 「私は誰とも組むつもりはないですわ」 「そう……でも、組む気になったらいつでもいらっしゃい。かわいがってあげるから」 黙って見つめる翔子。 誰が従うものかという表情だ。 その翔子に言う副会長。 「あなたもこの学園にいる以上、生徒会に入っている以上……いずれ従うことになるのよ。覚えておきなさい」 「お手柔らかに」 にこりと微笑む。その笑みに、それ以上食い込むのをやめた副会長。 「行きましょう」 くるりと振り向き、翔子にナイスなお尻を見せる。 「翔子、私のところに来るのを期待しているわ。執行部長と副会長、どちらを選ぶのは明白なはず」 そう言って出ていく。チラッと優実も見る。下を向いている丸山優実。 さすがに副会長は怖いらしい。 ――翔子……あいつ、ただの馬鹿だわ。 次から次に敵を作りまくる翔子は、もはや馬鹿に見えるようだ。 ――執行部長は、執行役員のトップ。その上が議長に副会長か…… にやける翔子。 「面白くなってきたじゃない」 つぶやく翔子。 ――選ぶのは副会長ね。ただし、選ぶんじゃなくて…… ――私が奪うのだけど。 授業のチャイムが鳴る…… 周りでは、さっそくひそひそ話しだ。ほんと、翔子は話題にことかかない。 こうして翔子と麻里華の強烈な出会いは終わったのだった。 その後、会長の権限で、生徒評議会召集日が決まった。 生徒評議会とは別名が生徒役員会。 ここで実質的な事柄が決まるのだ。 だが、今回は議事の内容が、示されていない 通常は示すのが普通なのだが。 会長が必要に応じて召集する時は理由がなくてもいいらしい。 しかし、これは異例のことだった。 海道美知は、調和を取るタイプだ。事前に何をするかはいつも話し合ってやるお方。 先代の会長が好き勝手にやって、学園が大混乱になるのを目の辺りにした美知。 だからこそ、調和を取ってきた。 それが今回は理由も言わずにいきなりだ。 女生徒たちが入ってくる。 役員に執行部長に議長、そして副会長。こういう場はちゃんと出る麻里華お嬢様らしい。 ――まったく……めずらしいわね。 カジュアルウェーブの髪をサッと揺らす麻里華。 海道美知がなんでいきなり呼び出したのかがわからない。 すると、三毛亜津子が来た。最大のライバルの登場だ。会長の横の席にスッと座る。 正面中央が会長席、その両脇に副会長と執行部長、そして司会係のような場所に議長がいる。この組織ではナンバー3の議長だが、実質はただの進行係らしい。 なので執行部長が実質ナンバー3なのだ。 役員がぞろぞろ入っていく。みんな召集されたのだが、全員は来ていないようだが。 ただ、風紀関係の役員は必ず来るようにとのことだった。 「ただいまより、執行評議会を開会します」 議長の言葉で始まる。が、その瞬間、間が空いた。 それもそのはず、議題がわからないからだ。すると、会長が…… 「今日の議題は、追加の委員について私から提案があります」 一同ちょっとびっくり。 ――ええ? 聞いてないわよ。 困惑する麻里華。事前に相談がないことなんて一度もなかったというのに。 「風紀委員長、御木愛さん」 「は、はい」 「二回生の副委員長に如月翔子さんを推薦したいの」 「え?」 ――如月翔子? 誰よそれ? 一瞬、誰だかわからない、が、しばらくしてやっとわかる。 ――美知…… いったいどうしたの? という表情は亜津子もだった。当然、聞いてもいない。 「あ、あの会長……もう二回生には副委員長が……」 「必要だと思うから追加提案しているのよ」 「…………」 強い口調に驚く。御木愛。こんな海道美知は初めてだ。 ――会長…… ただただ驚く。それしかない。愛はチラッと麻里華を見る。 風紀委員長 御木愛は麻里華派である。 抵抗しようにも相手は会長だ。 それにこういうことは、事前に協議してから……のはずなのに…… 副会長は言葉が出ない。明らかに今までの海道美知と違う。 そして、会長の横にいる執行部長へ、心はにらんでいた。 ――亜津子……やってくれるじゃない。 が、亜津子も…… ――こ、これは……麻里華の……罠? 疑心暗鬼に陥る二人。それをよそに会長は続ける。 ――美知…… 水泳部の三藤綺羅も驚くだけだ。 「各々の意見を聞きたいの」 「……あ、あの会長……」 風紀委員長が、意見を言う。当然、必要ないと言う意見だった。 「ほかの方のご意見は?」 30人近くの者は黙っている。 「亜津子、あなたの意見を聞きたいわ」 「会長が推すなら、依存はありません」 亜津子は賛成に回るようだ。 「麻里華はどう?」 「……今すぐ決めろというのは乱暴よ」 言い返す。亜津子と同じ意見は言いたくないようだ。それに、風紀委員を自分の同意なしでいきなり提案するというのが、そもそも気に入らない。 「そうね、じゃあ……」 「30分猶予をあげます。その間に各々決めて頂戴」 「採決で決めるというの?」 今度は亜津子が聞いた。 「そうよ、では一時解散します」 今度はいきなり解散だ。議長に解散するように促した。 びっくりしていた議長だが、素直に従った。 30分……ようはこれで承認するか拒否するか決めよということなのだが…… |
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