放課後のテニス部。
 みな練習にはげんでいる。翔子ももちろんその一人。

 ――ふう〜いい気持ち。

 身体を動かしているのが一番気持ちいい。やはり運動が一番だ。
 だが、あっちの運動は最近ごぶさたである。翔子は男の経験も、もちろんある。

 そして、女も……


 だがみさかいなく欲に走る女ではない。すべては自分に利益があるかどうかだ。
 悪い言い方をすれば自分がトップに立てるために利用する。

 利用できる人材を、欲と色気で狂わせ、虜にするのだ。
 そして、意に従わない者を駆逐していく……

 手段を選ばないというわけではないけれども……

 人の上に立つものは、信頼がなければ関係は崩れていく。
 関係が崩れるというのは、下手をすれば立場も逆転するからだ。
 その怖さも翔子はよく知っている。

 そろそろ翔子には、自分のために動いてくれる人物が必要だった。
 もちろん無理やり動かしたりするのではなく、相手が自ら翔子のために心から動いてくれる仲間がいる。
 そのためにはよき友達を、後輩を、作ること。

 さすがの翔子でも一人では無理だから。情報屋さんは一人いる。次にほしい人脈は……。

「あの〜これどうぞ」
「あら、いいの?」
 翔子がなにか飲み物を貰ったらしい。いつの間にか休憩時間に入っていた。

 くれた相手は…… 

 同じ如月の苗字の娘、後輩の如月舞。スポーツドリンクをにこっと笑いながら渡す舞。

 どうやらきっかけ作りのようだ。その目は相変わらず少女漫画チックな目をしている。

「あなた、いつもかわいい笑顔してるのね」
 翔子がほめる。
「あ、ありがとうございます」
 感激したらしい……なるほど、すぐに感情に入り込んでしまうタイプの娘のようだ。
 なにやら二人は談笑し始めた。

 そして……それを遠くでじっと見つめている女たちがいる。



 昼間、時枝先生を弄んでいた女たちだ。
「ねえ優実、翔子のこと少しはわかったの?」
「ええ、前の学園でもあの調子だったらしいとか……かなりの男も従えていたようね」
 丸山優実が目を細めて睨む。
「こっちでも同じようにするつもりかしら?」
 横にいた女の一人が優実に問いかける。
「そのつもりなら、早めに叩き潰さないといけないわね」

 翔子のクラスメートでの評判はいい。
 一番騒がれているのはやはり容姿だ。男も女も惹きつける美しい目、キュッと締まったウエスト、スラリとした長い足、その美しい足を組むと短いスカートからでる太もものチラリズム。どれをとっても完璧である。
 しゃべりかたもうまい翔子は、一躍クラスの人気者だ。

 だが、とうぜん敵も作ることになる。
 その一番手が丸山優実。

「亜津子お姉さまはなんて言ってるの?」
「まだ様子を見なさいってさ」
「のん気ねえ〜もう、お姉さまったら」

 ――そうね、少し慎重になりすぎよね。

 慎重……それは意味を変えればそれだけ翔子を認めていることになるのだ。
 それがますます気に入らない。

 白いテニスウエアのお尻の部分をキュッと握り締めていらいらを鎮める優実。

「ねえ〜舞の奴、翔子に近づくつもりかしら?」
「もうまいってるわよ、あの子」
「優実、あんた狙ってたんじゃないの?」
 再び問いかけられた優実。
「別に……ちょっとかわいがってあげようかなと思ってただけよ」
「ほんと〜?」
「本当よ、それより……舞が翔子にぞっこんならそれはそれでいいかもね」
「え?」
 じっと翔子を見つめる優実。なにか考えているらしい。
「何考えてるの?優実」
「ふふ、ちょっとね」
 不気味な優実の笑顔……子悪魔の笑顔とは本当にこわいものだ。
 優実は話がはずんでいる二人の女をじっと見つめていた。
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