騒がしい晩餐会から少し離れた部屋にある一室…… そこには一人のメガネをかけた青年が立ってミツアーウェルを待っている。要点を整理しているようだ。何か考えている。彫刻がズラーっと並んでいる周りの部屋をなんとなく見ながら。 だが良く見ると公には見せられない物もあるようだ……アダルトではないが…… そういうことだ。 「待たせたな」 ダルマさんがやってきた。チラッとミツアーウェルがミリアムを見る。少し不機嫌そうなだんなさま。 リリスのお尻を楽しむという行為が出来なくなってご不満のようだ。 「お久しぶりでございます、ご健勝でなによりで……」 「ふふ、そなたもうまく取り入っているようじゃの」 椅子に座ってちょっと笑うミツアーウェル。横にはシミリアン少年が立っている。 「おかげさまで……」 軽く会釈するめがね男。 「取り入るなら御当主よりもお嬢様の方がよかったのではないか?」 にこにこ微笑みながら嫌味たっぷりにミツアーウェルが言い放つ。 ミリアムは若い、それでいて将来は有望だ。あのリリパットに気に入られているのだから。 「いえ……私は……」 そして次の言葉をミリアムが言おうとしたとき、 「もういいわ、それよりはよ用件をいえ」 はやく戻りたいだんなさま。リリスのお尻と胸を追いかけなくてはいけないのだ。晩餐会は始まったばかり、まだまだ楽しめる。そして……あわよくば…… 「お人払いを」 「ん?……政治的なことか?」 「いえ……そこまでのことでは……」 ミリアムが答える。 「……かまわぬ……申せ、こういうことはシミリアンにも知ってもらわねばの」 貴族の家柄ともなるといろいろあるのだ。側近は絶対に言えない秘密もよく知っている。逆に言えば知ることによってお互いを縛ることも出来るのだ。シミリアンもそういうことを覚えなければならない時期に来ている。 「わかりました、では申し上げます、ミツアーウェル様におかれましては、今宵の晩餐会の後のことは一切関知しないとということでよろしいでしょうか?」 「なに?」 一瞬妙な顔をするミツアーウェル。 ――関知するなじゃと? 「……どういうことじゃ」 ミツアーウェルが少し厳しい顔で聞き返す。だがもうなんとなくわかってはいるはずだ。 「……屋敷をお出になられた後のことは任せていただけるようにとのことでございます」 (どういうことだろう……?) シミリアン少年には意味がわからない。が、だんなさまはもうわかっていた。じっとめがね男を睨む。 …… ………… 「……わかった」 ぽつっと一言だけ。もう言わなくてもだいたい飲み込めたようだ。 「ありがとうございます」 軽く一礼するミリアム。ちょとほっとしている。だるまさんがだだをこねられたら困るからだ。 「だがの、晩餐会が終わるまでは屋敷にいるメイドたちはわが権限の中にある。屋敷を出るまでは我が手にある、それでよいな……」 「はい」 精一杯の抵抗だった。ミツアーウェルの。 「用件はそれだけか?」 「はい」 冷静に答えるミリアム。すると不機嫌そうにダルマさんは立ち上がった。そしてさっさと部屋から出て行こうとする。聞きたくない話だ。実に不愉快だ。 すると、ちょっと考え込んで…… くるっと振り向いた。 「……もしよければ……教えてくれぬか……かちあっては困るのでな」 「……名をですか」 「わしが口説こうとしているのとぶつかっては困る」 背を向けたまま返答を待つミツアーウェル。シミリアンもようやく状況がわかってきた。 (ま……まさか……) 「漏らさぬ様にお願い申し上げます」 「ふっ、どうせ漏らしたところで相手は何も出来まいが……」 食った言い方で言い返すミツアーウェル。 「では申し上げます」 ゆっくりとミリアムは名を呼んだ…… |
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