大厨房の女達 |
リリスが大厨房と呼ばれる場所に着いた。メイド達が忙しく動いている。コック達も大忙しだ。この時間帯がいちばん忙しい。大厨房はそのまま鳳凰の間へとつながっている。この鳳凰の間にミセルバ様とその親族が毎日食事をされに来る。結婚式の披露宴のような広さ。 ここに数人のためだけに贅沢な食事が出されるのだ。各地から取れる果物、海藻類、肉、野菜、あらゆるものが調理され、たった数人のために食べ切れないほどの料理が出される。今ここを利用するのはミセルバ、妹君アーチェ、弟君クローザーのみだ。もちろん他の親族が来られた場合もここで食事を共にすることもある。 リリスが来るとメイド達が軽く一礼しながら料理を運んでいる。ミクもいる、モーラも、マイカもだ。他のメイド達も忙しそうだ。メイド達が運んでいるのは鳳凰の間だけではない。ここから行くのは他の部屋にも料理を運ぶこともある。チラリチラリと料理を見ながらチェックしていくリリス。まあ見なくてもいいのだが、立場もあるのだろう。仕事をするふりも大事な仕事だ。 ――ん? 向こうでなにやら揉めている。 「おい!ここに置いてあった料理をどこへやった?」 「あ、あの……劉邦の間へ持って行きましたけど」 ミクが答える。 「あ〜ん?あほ!あれは御領主様に出す予定だったんだよ!」 「ご、ごめんなさい」 「まあ〜いいか。また作るよ。まったくミクちゃんにはかなわないなあ」 どうやら大事には至らなかったようだ。それにしてもミクはそそっかしい。まわりで笑い声が聞こえる。 人気者らしい〜ミクは。 だがそのミクを白い目で見つめている女が一人いる。リリスはそれを察知したようだ。スッとその女に近づく。 「気にらないの?シスア」 「別に」 スッとその場を離れる女。 シスア……リリスとメイド次長を争っている女。同い年でありライバル心も大きい。加えてレイカ派なのだ。メイド次長とはメイド長の次の役職だ。今は空位になっている。 ――ん?サブリーダーのリリスじゃないの?と思われるかもしれない。ところが違うのだ、実は年齢によってリリスには与えられていないのである。メイド長は28歳ぐらいから次長は26歳ぐらいからと慣例ではそうなっている。 慣例なぞそこまで気にしなくてもと言うのは簡単だが実際はそうはいかない。さらにその26から上が32歳のレイカ以外はいないのだ。レイカの次はリリスとこのシスアその他二人。みな24、25歳である。 だがサブリーダーは必要だ。そこでその年齢に達するまでリリスが次長という役職はつけずに立場的には二番手にしてある。 なんか非常にややこしいのだがこれにもわけがある。一つは慣例重視の側務官議長ジボアール、騎士帝長バルザックの意向がある。なにかとこの二人は頭が固い。こんなことで揉めたくないミセルバは26に3人がすべてなったときに改めて申し付けるということにしてあるのだ。 慣例、先人重視のこの時代、御領主もいろいろ大変だろう。だがリリスが優位なのはほぼ間違いない。下の者からも信頼が厚く、まして4〜5にんは指奴隷にまでしているのだから。 シスアも人を管理する能力はある。しかし、策略家であり、傲慢過ぎるところがあるのだ。器もリリスにはかなわないだろう。他の二人の女性はレイカ派でもなければリリス派でもない。ただただ年齢を重ねて行っただけ、後は結婚して引退、っていう予定らしい。シスアもリリスも次長の役職には魅力がある。 ミセルバの代になって30を過ぎてもメイド長を辞めさせられる可能性がなくなった今、次長はそのステップアップの重要な一つだ。 シスアは現場の責任者と行った感じの役目をしている。それにしてもなかなか良い形の胸だ。男の噂も絶えないというがこの胸を見ればよくわかる。一度は私も味わってみたいものだ。 「ミクは相変わらずね、せっかくリリスが目を掛けているのにねえ」 「あら、一生懸命やってるわよ彼女」 「そう……」 そう言ってシスアはそっけなく部屋から出て行った。 ふふ……対抗心むき出しね相変わらず。いつまであのババアのいそぎんちゃくするつもりかしら? 女達の動きを見つめながらリリスは心の中でつぶやくのだった。 |
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