「何の用ですか?シスア……いや、シスア貴婦人」
「うふふ、うれしいわね、貴婦人って呼んでくれて……」
 にっこりと微笑むシスア。きれいな白いドレスに身を染めている。シスアはとうとうこの年齢で貴婦人と呼ばれるようになっていた。正式に屋敷も与えられる予定だ。この国では貴婦人とは、愛人か、貴族の女の別称にあたる。
「私に何か用なのでしょうか?」
 ミリアムがもう一度尋ねる。ここは、もうすぐシスアの屋敷になる所だ。リリパットが作らせている。屋敷まで与えるのは初めてのリリパット。今まで家を建ててやったことは、何度かある。しかし、それは平民が建てている家だ。この屋敷はある程度の身分の者でないと建設することが出来ないのだ。さらに出来上がった屋敷にはツス家の紋章をしっかり刻み込む予定である。

「あなたに興味があるの」
「……どういつもりです?」
 怪訝な顔をする。するとシスアがそっと近づいてくる。シスアはもうこの部屋に住んでいる。完成していない屋敷だが、庭や、門の前には雇われた兵士もしっかりいる。6分位が施工し終わっているのだ。
 最近は、別の女のところへ行っているリリパット。リリスをめちゃくちゃにした後、少しシスアから離れている。と言っても嫌いになったのではない。嫌いならとっくに捨てている。屋敷を貰ったということは、大事にしてくれるということだ。
 権力者とは、一人の女を抱くと、慣れや飽きがが出る。そこで、別の女を抱いて、また戻ってくるというわけ。そうやって新鮮さを保つのである。

 さらに近づくシスア。この部屋、この屋敷にはメイドもまだまばらだ。夜になるとひっそりとしている部屋。屋敷の周りは兵士達が警護、身の回りの世話が済めば、メイドたちはお休みだ。

 外からの明かりは薄暗い。この部屋を妖しく照らす。

「懐柔するつもりなら、やめることです」
「気になるのよ、あなたが」
「ほう〜とんでもないことを言いますね」
 めがねをピクッと動かす青年。
 リリパットの愛人が側近青年を気になるという。こんなことが知れたら……

「あなた、めがねが似合うのね、本当に」
 ついに目の前にきた。
「殺されますよ、へたをすると」
 ミリアムが脅すような言い方をする。一瞬ひるむシスア。しかし、
「誰に? ラルティ−ナ?」
「何を言っているんです、御当主に決まっているでしょう」
「あなたも殺されるわね……多分」
 意味深なことを言うシスア。そっと手まで握る。その手をミリアムは払いのけた。

「失礼ね、せっかく手をにぎりたいって言ってるのに……」
「用はなんです? こういうことなら帰らせてもらいます」
 サッと帰ろうとする。その前に立ちふさがる女。

「どういうつもりだ?」
 さらに険しい顔つきになる。
「味方がほしいの……」
 甘えた声を出してきた。するとミリアムはちょっと黙った後……
「シスア殿……大人しくしていることです。その方が身のためだ」
「それだけではどうしようもないわ」
 スッと寄り添うように近づく。このテクニックはリリパットには通用しているようだ。ちょっと戸惑うミリアム。力づくではねつけようと考える。しかし、その瞬間、リリスのあの時の表情が思い浮かぶ。あの集団レイプは、ショックだった。少し軽く考えていたこの青年にとって、あの出来事は女性に対する意識を変えた。

 乱暴には出来ないという想いが強くなったのだ。以前はもう少し女に厳しかったミリアム。

「私の周りは敵ばかり」
「わかって、リリパット卿の愛人になられたのでは?」
 ちくりと言い返す青年。
「そうよ、でも……怖いわ」
 急に悲しい声をする。それを見て……
「そうやって取り込むおつもりか?」
 そうはいかないという表情のミリアム。この女性の考えることなどすべてお見通しだという目だ。

「ツス家の女性の方も、アウグス家の女性も……怖いの」
 サッと抱きつくシスア。まるでか弱い女性の典型のように寄り添う。
「大人しくしていれば、大丈夫だと思いますが」
 冷たい言い方だが、引き離そうとはしない。これもやさしさなのだろうか?
「御当主以外に頼りになる人が必要なの……」
「……私を頼るよりも、もっと違う人の方がふさわしいですよ。私はこれでもまだまだ下っ端だ」
 ミリアムはリリパットの側近でも一番下の地位だ。政治的なことは許可なく一切意見を言えない。代わりに今回のようなリリスをどうこうする時に使われるといった程度である。こういうのを経験を得て、大物になっていく者はなっていくというわけだ。

「どうしても駄目なの?」
 まっすぐな瞳が訴えている。一瞬奪われるミリアム。こういうしぐさがリリパットのお気に入りの一つなのかもしれない。しかし目をそむける。
「帰ります」
 と言った瞬間だった!

 ぷしゅううううううううううううっ――――

 ミリアムに妙な液体が降りかかった!――
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