さらに汗は流れ続ける……

 人妻の身体全体に……

 ――な、なんてこと……
 うつむくミシェスタシア。まるで見世物だ。しかし、これで済むならという思いもある。

 お金がほしい……もし要求されれば身体も差し出すつもりだった。

 しかし、愛は与えない。
 要求されれば受け入れるが、それも一度だけ。

 そしてお互いの秘密にしようとも思っていた。そうすればリリパットにも迷惑はかからない。

 しかし、愛を承諾して貰わないと、貴族の間では恋愛は成立しない。
 愛なしに深い関係になるのはご法度。
 もちろん、強引にやればできる。しかし、その瞬間、リリパットの評価は下がるだろう。

 
 身体をうばい、満たせても、評価が下がるのは貴族の男にとって一番の恥だ。政治的な政略結婚でもなければ、恋愛はすべて女性の意思で決まる。

 だからこそ、こんなことをやっているのだ。これは手を出していないというある意味の意思表示。
 貴族という身分はそれほどまでに男女とも大事な価値観であり、これを覆すことは、たとえ王でも許されないという考え方なのである。
 逆に身分のある女性にとっては、これを利用できるものでもあった。

 しかし、いまの人妻には、この行為は屈辱でもある。

 こんな恥辱に似た行為は許せない。しかし、これで借金が消えるなら……
 安いものだ。

 そして、リリパットも、もはや違った感覚を持っていた。


 ――これを……味わえる男がどれだけいようか……

 こんなフェチ的な体験はそうない。セックスはいつでもできる。欲を満たすだけの女ならいくらでも代わりはいる。しかし、この欲は満たせない。

 ――わたしは幸せだ……

 にやっと笑った。この状況を楽しめる男がどれほどいようか?

 特権だ、特権、優越感に浸っている。

(畜生〜いつまでおあずけだよ)
 とっくに臨界点を超えている少年が一人、Okが出ればすぐにでも襲いそうだ。だが、リリパットはなにも言わない。

 ミリアムもこの状況を固唾を呑んで見守っている。あまりにもフェチ的で、あまりにも淫らに美しいミシェスタシアの姿に、ただただ戸惑いと興奮を覚えているのだ。

 これはラルティーナの比ではない。ミセルバやラルティーナにも決してかなわない色気と魅力。

 その色気と魅力をリリパットは楽しそうに見つめていた。




 ロットの母親が、御当主によって、フェチ的な責めにあっている頃……

 こちらではリシュリューの説得攻めにあっている一人の御領主がいた。

「御領主、ご決断ください!」
 責める騎士長、いや、迫る。
「……ま、まって」
 ぐんぐん責められるミセルバ。まるでマゾであることを見透かされているかのようだ。
 それをみてシュタインが止めに掛かる。
「こらこら、騎士が領主を責めてどうする」
「も、もうしわけありません」
 どうやら熱くなっているようだ、リシュリューは。

 この宿も定期的に集まるようになっていた。しかし、ミセルバはまだ決断できない。
 リシュリューもすぐに王族検察の協力が得られるとは思ってもいない。だが、まだ相談さえしていないのだ。相談だけはやりたいリシュリュー。

 きっかけさえまだ行なっていない。

「今日はお開きじゃの」
 爺さんが終わりを告げる。肩を落とす騎士長。

 ――まよってる……私。

 迷うミセルバ。やはり後の事が気に掛かる。やれば領内はおそらく大混乱だ。だが、やるといっても、動かせるのはミセルバじゃあない。あくまできっかけを相談すること。しかし、ここさえ進まないのだ。

 今の状況ははじめの一歩さえ、まだだ。

 椅子から立ち上がろうとするミセルバに、ロットがそっと近づいた。

「ゆっくりお考えになってください」
「……ありがとう」
 さすがは男官だ。愛で支えるのも男官の役目。

 お開きになり、バラバラに帰る。ここにきた証拠を残さないように……

 平民向けの馬車が来た。これに乗ってお忍びでお城に戻るのだ。
 お城にはいくつかある裏門から中に入れる。その一つが、男官や側務官が使う場所がある。この場合、側にいる女性の身分は明かさなくても、ロットがいるおかげでなんなく入れるのだ。
 さらにそこの門番はロットと騎士長の知り合い。これならミセルバがひそかに外出しても大丈夫。

 御領主なのに堂々と正面門を抜けれないというのも複雑だ。
 まあ、密会とはこういうものだろう。

「疲れました」
「お休みになってください。着きましたらお声をかけます」
「ええ、お願い」
 相当眠いミセルバ。いろいろあって大変だ。夜が激しいのも原因の一つ。あんなすごいオナニーをしていては身体はもたない。

 ――うわ〜 寝顔……

 18の美しい寝顔がロット少年の前にさらけ出される。だが、ハノ字に曲げられた眉は、疲れの度合いがきついことを示している。それでもこの表情にみとれるロット。

 ――きれいだ。

 あのオナニーに夢中なミセルバ様とはまた違う美しさだ。この寝顔も誰でも見れるものじゃない。
 
 すると……


「あ……あん」
「え?」
 ドキッとする言葉が聞こえた。

 それはミセルバが見ている夢のせいであった。
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