「今日、いいかしらミク」 「え?」 リリスが執務室でささやく。 「ミセルバさまとよ」 にこっと笑うリリス。 「あ、そ、そうなんですか?」 「さっき言われたのよ、恥ずかしそうにね、来ないかって」 机の前に座りながら誘うリリス。ミセルバ様から今日地下牢に来て……というサインが出たらしい。 「はあ〜」 あ〜んっていう顔をするミク。 「あら、何か用なの?」 「あ、はい……実は」 ミクがしゃべり始める。 ――マイカが? 普通は必ずリリスに誘いを持ちかけてくるマイカ。ところが今日は呼ばれていないのだ。 ――どういうことかしら? リリスが呼ばれない……声をかけられない……これはおかしい。 「あ、あのお姉さま、ミセルバ様のお誘いなら……」 「いえ、いいのよ、開いていたらって事だったの。来れないなら仕方ないし」 「あっ……あの」 ミクが何か言おうとする。 「マイカちゃんと今日は遊んで頂戴」 「あ〜ん……」 「仕方ないでしょ、急にミセルバ様が誘ってきたのよ、マイカ達の方に言ってあげて」 「……はい」 ミクは不満そうだ。ここでリリスお姉様に口ぞえしてもらって……というのを考えていたらしい。リリスも最初はそれを考えた。しかしミクをミセルバ様の元へ連れて行ってしまえば今度はマイカ達の方が気に掛かる。私に相談なしで遊戯宿に行こう等と言うことはまずなかったことだ。これはある意味重要なサインでもある。でもリリスにとって今日は絶対にミセルバ様とじっくりとお話もしたい。 ――今日のあの事相談してみたい、そうしないと納得できないわ。 「お、お姉さま」 「んっ、なに?」 「いじめちゃ駄目ですよ」 ミクが釘を刺す。 「うふふ、大丈夫よ」 「う〜」 ぷう〜っと膨れるミク。こればっかりはどうしようもない。それにミク自身も最近他の指奴隷達との関係を気にしていた。ここでマイカ達の誘いを蹴ると後々もっと気がかりになる可能性もあるのだ。 「ねえ、ミク」 「はい?」 「今日、遊びに行ったら……それとなくみんなの様子を見て頂戴」 「……は、はい」 ミクもなんとなくわかっているらしい。リリスも気がかりなのだろう。 「よし、今日はもうこれで終わり」 いらいらする書類をポンッと閉まってにっこりリリスは微笑む。 しかし……今日はミクがいない……ブレーキ役の人間が…… ――ふふふ、でもミクがいない……か……これはこれで面白いかもね。 にっこりと心の中で笑うリリスだった。そしてちょっと心配の種も増えた。 「うめえええっ!――」 男が叫ぶ。一気に酒を飲み干している。その男の名は ガッツ。 ここは酒場。と言っても誰でも入れる酒場ではない。選ばれた人間だけが入れる……会員制と言えばいいのだろうか?ようはある程度金を持っていないと入れない所だ。しかし、馬鹿騒ぎする連中はどこ行っても馬鹿騒ぎする。今日は貸切らしい 「ガッツ殿はご機嫌のようですな」 「騎士帝長から内示があったらしい」 「え?」 ふざけまくっているガッツの周りにいる連中の奴らが何か話している。 内示……それはつまり…… 「では、いよいよ帝長に……」 「まあ、まだ先の話だけどな」 「ツス家絡みですか」 「そりゃそうだろ」 ガッツの居る所からちょっと離れたテーブルで何やらひそひそ話をしている騎士達。それを何気なく聞いているリシュリュー。 ――順調ですな……ガッツ殿―― ビールに注がれたジョッキを見ながらリシュリューが考えている。この酒は今日は飲み放題。ガッツ騎士団長のおごりらしい。ガッツも38歳。まだまだ帝長になるには若いが後数年でバルザックは引退が決まっている。他の団長クラスももちろん候補だ。 そろそろ内々に動きがある時期なのだ。もちろん数年先の事なのだが。だがガッツには数年でもツス家には数年ではない。ツス家同士で力の小競り合いがもうあっている。モノの順番等、自分がひいきにしている家の順番……あっちで譲ったからこっちは好きにさせてもらう等……これをうまくやらないと不満が募る。世の中そんなもんだ。 ツス家に、アウグス家にせっせと貢いでいる人々は自分の家と息子や娘のために貢いでいるのだから そこにひどい時には本人に意志とは無関係に事が進んでいく恐ろしさもある。 「おい!もう一杯持って来い!」 半分怒鳴り声でガッツが叫ぶ。やはり今日はご機嫌のようだ。 「いらっしゃいガッツ」 「おおっ、これはこれはミウの母親殿!」 にこっと微笑むガッツ。そこにはミウの母のミウリがいた。 |
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