「あ〜もう! 頭にくるわ!」
 びしょびしょになった服を脱ぐ二人。それを見ている5人ぐらいの娘達。
「あははっ……災難だったねえ〜」
 笑うアイリーン。濡れた服を見ている。

 あれから二人は港の海に飛び込んだのだ。なんとか泳いで逃げきったらしい。ここは、ラルクルの街のはずれのスラム街のようなところ。いくつもの長屋のような場所が広がっている。
 こういうところは盗賊のアジトには都合がいい。

「今度みつけたらとっちめてやるわ!」
 遊び人少女の方は怒りがおさまらない。あの少年のせいでこんな目にあったと八つ当たり。
 この娘、あの洞窟で目狐から奪った時にいた娘の一人だ。
 おニューの服だったからなおさらである。一方のチャイナ娘は、何か考えている。

 それを見て聞く女盗賊のリーダー。

「どうした?」
 考えているチャイナ娘を不思議そうに見るアイリーン。自分の部下が何か気にしているらしい。

「あの紋章……どこかで……」
 あれはまぎれもなく王家の紋章だ。美しい天使が羽を広げている姿が王家の証。教養のある人ならすぐにわかるのだが……

「貴族の少年かい? 貴族なんて最近じゃいくらでもいるからね」
「平民じゃないの? 勝手に貴族のような格好している成金息子ってこの町多いらしいし」
 数人の仲間の一人が言う。
「いや、そうじゃなくて……」
 わからないチャイナ娘。紋章なんてめったに見ないからだ。さらに王家の紋章は地方にいればまず見ることはない。

「少年や紋章より、私はルビアという名前が気になる」
「ルビアですか?」
「女軍人だと言ったね?」
「はい……」
 答えるチャイナドレス娘。

 ――ルビア……か。まさかあのルビアか?

「私が目狐にいた時に、徹底的に苦しめられた女かもしれない」
「目狐って軍人さんで崩壊しちゃったの?」
 遊び人風の娘が尋ねた。もっとも着替えてもう別の服だが。
 どうやら最近このグループに入った新入りらしい。昔の事情は良く知らないようだ。

「そうだよ、あの時は頭に来たけどね……
今になって考えれば、勢力が弱くなってくれてありがたいことさ」

 昔グループにいたアイリーン。もう独立していまや盗賊団目狐の目の敵の立場。

「それと……ポポって言ったのかい? その少年」
「ええ、でもそういう名は多いですし」
「……ふむ」
 ちょっと気に掛かるようだ。

「その紋章の特徴わかる?」
 アイリーンが聞く。
「たしか……羽を広げているような……」
「!……なんだって?」
 ピンと来た女盗賊リーダー。羽を広げている紋章はこの国ではただ一つ。

「ちょっと一緒に来ておくれ」
 チャイナ娘を連れて外に出る。こちらは着替えてもチャイナドレス。
 いきなりどこかへ連れて行かれる。

 アジトから馬で二人である場所へ向かう。そこは使われていない教会であった。
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