「なるほど、こうなっていたのですか」
 にっこりとルビアが微笑む。まるでいたずらっ子の子供を見ているかのように……。さすがに殿下も唖然としている。まさか、いつの間にという感じ。びっくりしているポポに一言。
「私は軍人です。メイドさんとは違いますよ」
 ちょっと苦笑いの殿下。しかし額には冷や汗が……。焦っている証拠だ。サッと本能が働く。まずは逃げることだ。そのまま洞穴の奥に走る。
「殿下!」
 母親が子供を怒るような声で叫ぶ。
「戻ってきてください」
 ルビアも奥に入り込む。この洞穴にはもちろん覚えがある。戻れと言われて殿下が戻るわけがない。

 ――なるほど……もしかして……。
 
 這い這いしてルビアも入っていく。徐々に穴の大きさが広がり立って歩けるようになった。そして……ん?

 

ガガガガッ!





 ゴゴッ……ゴッ……。



 ――閉まった?



 ルビアの後ろの出口が勝手に閉まっていく。これは一体……?

 先に入った殿下がなにやら秘密のレバーを引いたらしい。サッと戻り出口を確認するルビア。

 …………閉じ込められたか……。

 予測どうり。でもここまでは気づかなかったルビア。ちょっとポポにしてやられたという感じ。閉じ込められたのは仕方ない、でも出口はあるはずだ。
「殿下!」
 元いた場所に戻って大声を出すルビア。シ〜ンとしている洞穴。真っ暗だほとんどなにも見えない。すると向こうから光が……。ルビアはゆっくりと歩いて行く。

 
 ――蝋燭?
 壁に蝋燭立てが置けるようにしてある。本来敵が来た時の避難場所のために作られたところだ。いろいろ出来るようにしてあるのだ。ポポたちもそれを利用している。

 これは……どうしてこんなところに……こんな洞穴が。
 
 ゆっくりと考えながら光の方へ向かっていくルビア。ほぼ100パーセントポポが蝋燭をつけたのは明らかだ。次々と蝋燭をつけていくポポ。逆に言えばこっちに僕がいますよっていうことにもなる。ルビアは状況を判断しながら歩いている。

 道が別れている……すごいな……。

 枝分かれのように別れている道が進めば進むほど複雑になっている。頼れるのは蝋燭の光だけ。ルビアはちょっとした不安と好奇心に惹かれながら殿下の後を追う。しばらくすると廊下のような場所に変化した。地下宮殿といったところか。でも床はボロボロ、廃墟のような雰囲気だ。


 あっ……。

「こっちだよルビア」
 いたずらっ子のようににこにこしている少年が一人。ポポだ。
「殿下!」
 ルビアが駆け寄る。ポポがいる部屋の中に入ったルビア。ちょうど部屋の入り口ちょっと先で止まる。  そこで今度はポポが一言。
「後ろが閉まっちゃうよ」
「え?」
 瞬間後ろを見るルビア。そして閉じ込められると思って部屋から飛び出した。ところが……。

 飛び出した先の天井から牢屋の柵になるように鉄棒が落ちてきたのだ。ルビアの目の前が行き止まりになる。
「殿下!」
 もう一度殿下の方を振り向いたルビア。だが……。

 こちらも柵で行き止まり……。



  ……つまり。





 ルビアはさらに狭い範囲で閉じ込められてしまったのだ。
「うふふ、僕の勝ち」
「…………」
 やられた……うまく利用されてしまったルビア。これじゃ牢屋に入っているようなもの。
「殿下、出してください、このような悪ふざけは許せません」
「僕の言うこと聞いてよそしたら出してあげるよ」
「…………」
 じっと睨むルビア。こらっ!って感じの目で殿下を見る。一方の殿下は口笛を吹いてのん気なものだ。
「ねえ、言うこと聞いてくれる?」
「何をですか?」
「まずさあ〜ここを黙っててほしい」
「……約束は出来ません、お城の中でこれだけの洞穴があるというのを王家の方々は知っているかどうか報告します」
「それじゃ困るって」
 ぷう〜っと殿下がふくれる。するとルビアは腕を組んで、
「駄目です」
 と一言。対抗心むき出しのルビア。プイッと顔をあさっての方向に向ける。ちょっとかわいい。
「じゃあこのままだよルビア」
「…………」
 
 ――困ったわねえ、う〜ん。

 ポポは一歩も引くつもりはない。ばれたらもうここでも遊べないのだ。
「わかりました秘密にしますから」
「ほんとう?」
「ええ」
 ポポはうそと思った。でも秘密にすると言っている。それにこのままの状態でずっといるわけにも行かない。逆にちょっと考えるポポ。そして……。

「じゃあ約束の証としてキスしよう」
「え?」
 目を丸くするルビア。

 ――キス?
「いや?僕とするの」
「あ、あの……」
「いや?」
 ちょっと下を向くポポ。なにかさびしそうな顔だ。こういうしぐさをされるとグッとくる女は来てしまう。

 困ったわね、別に嫌じゃないけど……。

 ポポがただのどこかの少年ならこの場をしのぐためにすぐする気になるかもしれない。しかし相手は将来の国王だ。ちょっととまどう。こういうことがばれれば大変なことにもなる。
「殿下、そういうのは……」
 

 あら?

 そういうのは卑怯ですよ、殿下のような御立場の方がすることではありませんと言おうとしたかったルビア。でもポポはちゃっかりしている。鉄格子越しにもうルビアに顔を近づけ目をつぶって唇をちょこんと出している。僕にキスしてくださいと言っているかわいい口。

 ――はあ〜もう、仕方ないわね。

 軽い気持ちでキスする気にルビアはなった。この場を治めるには仕方ないと判断。ゆっくりとポポの顔にルビアが顔を近づけた。


 
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