「解放しなさい!」
 ミシェルンを捕まえ、首を絞めるラゼ!

 驚くサルン。これは意外だった。ラゼは正統派タイプの女性。こういう卑怯な行動には出ないはずなのだ。もちろん、。卑劣なのはサルンのほうだが。
 
 顔色が変わるサルン。どうやら気に入らないらしい。

「君らしくもない、そういうのは君にふさわしくない行為だ。弟の婚約者としての資格はない」
 サルンも王としての資格などないと思うが。
「解放するのよ! でないと!――」
「助けて! サルン!」
 苦しいミシェルン。首が絞まる、弱っている王族ダークエルフの娘とはいえ、力はある。いよいよサルンの顔が険しくなる。ランカがこれはチャンスとばかりに動こうとした時!

「きゃああああああああっ!――」
 あっという間にサルンがラゼの懐に飛び込み、腹に一撃を食らわした! 倒れこむラゼ。

 これは無謀だった。

「こ、この〜」
 足で踏みつけようとするミシェルン。それを静止させる未来の王。
「ラゼ、君らしくもない。こういう行為はみっともない」
 たしかに。しかし、それを言う資格はサルンにない。

「今の行為は、非常にむかつく。謝るんだ、この僕に」
「な、なにを!――」
 一撃を食らった腹を抱えてサルンをにらむ戦乙女。鎧がカチャカチャと音をする。
「謝れないなら……僕が躾けてやる」
 そう言うと、ラゼを抱きかかえる。
「こい!」
 無理やり連れて行く。

 ハッとしたランカ!


「サルンさま!」
 さっと前に立ちふさがる!
「どけ! ランカ! 僕は今、非常に気に障っている!」
「どうなさるおつもりですか!」
 嫌な予感がした。

「……ふっ……ランカ、君は感がいい。それが命取りだ。おかげでその気になったよ」
「サルンさま!――」
 すがりつくランカを殴り飛ばす!

「きゃああああっ!――」
 倒れこむランカ。ここで剣があれば、サルンに剣を本気で向けていただろう。
「気になるなら一緒にくるんだ」
 ラゼを抱えたまま言う。
「グアッ!――」
 噛み付かれた! ラゼに! 
「くっ……威勢がいいな」
 だが、サルンは平気だった。そのままランカをともにさせようとする。

 すると……

「ちょ、ちょっと!」
 今度はマレイアスだ……

 ラゼとまったく同じようなことをしたのだ! だが、体力のないマレイアスなど、ミシェルンには無力に等しい。

「ぐはっ……」 
 その場で反撃され、倒れこむ。あっけなく終わり。ところが、少しにやけながらサルンを見ている。

 ――ふん、あてつけか……

 さらに気に障ったらしい。たいした度胸の女騎士。
「マレイアス、君には后としての誇りがないようだね。ミシェルン、躾けてあげなよ」
「え?」
「しばらくは君に預ける。后としての教育をしたまえ。ただし、傷つけるなよ」
 そう言ってランカと一緒に行くサルン。

「ちょっと〜聞いたあ〜」
 グリグリと足でマレイアスの後頭部を踏みつけるミシェルン。マレイアスを躾けろというご命令だ。
 ミシェルンにとって、この女は特に気に入らない。
 マレイアスのせいで、構ってもらえなくなったのだから。

「ふふふ、だったらさあ〜お尻の穴でも掃除させましょうか?」
「え? 本当ですかあ〜」
 インリの目が光る。
「決まりね、馬鹿な女ね〜さっさと用意しなインリ」
「あ、は〜い」
 ニコニコと笑顔の表情のインリ。ああ、とうとう今度は、マレイアスが餌食に……


 ――ふん、好きなようにしろ!――
 思った瞬間だ、ミシェルンが髪を乱暴につかむ!

「何が后よ、排泄地獄にしてあげるわね……嫌というほど! 徹底的にね!――」
 笑いながらミシェルンは言うのだった……だが、マレイアスはひるまない。

 それより、マレイアスはあの戦乙女の事が気になっていた……
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