「完敗だ!」
 悔しがるラブゼン! あれからちりちりになったダークエルフの王族たちは、一同に集まっていた。
「これからどうします?」
 王女の一人が声をかける。みんな服も鎧もボロボロである。
「打つ手がない……」
 深刻な表情の王子エルディーニ。

「ラブゼン殿、サルディーニはまだ力をつけていくのでしょうか?」
「おそらく……数年後には完全になる」
「あれで成長過程なのか? 冗談じゃない! もう手に負えんぞ!」
 騒ぎ出す若い王族の男女達。彼らは、ほとんどが王の地位についた者の本当の力を知らない。というか知る必要がなかったからだ。王自身や、王族が、お互い本気で戦うことなど数百年なかったからである。

「ラゼはいないのか……」
 ラブゼンがつぶやく。
「捕らわれただろうな……」
「おそらく……」
「ラゼ殿は、われわれダークエルフの王族の中でも、戦乙女と呼ばれるほどの、力を持ったお方。これは痛い」
 王族の一人が無力感を与えるように話す。彼女は王女の中でも、特に力を持った女性なのだ。あの水晶と剣で戦う勇ましい女性。

「もう一度、挑みましょう! そしてラゼ殿を取り返すのです!」
「いや、ここは一旦引き返し、父上の御指示を仰ぎたいのですが」
 エルディーニが落ち着いて話す。
「王子、よろしいのか? ラゼ殿を取り返さなくても」
「今の状態で行けば、さらに捕らわれる者は増えるはずです。ここは一度引くべきです」
 王子は落ち着いている。だが、本当は気になっているはずだ。
「残念だが、ここは一回戻り、王の指示を仰ぐほかない。ここまでとは俺も思わなかった」
 ラブゼンの落胆は強い。相打ちどころではない。まったくレベルが違いすぎる。
 さらに妹まで捕らわれた、この事実もショックだった。

 こうして若き王族たちは、ブックルに報告して、本国へ戻ることになる。
 だが、時間が経てば経つほどサルンは成長するのだ。



 一抹の不安を持ちながらランカがサルンを見ている。ゆっくりと椅子に座るサルンを見ながら……
「謝るんだ、ラゼ、この僕に」
「なぜ!」
 反抗するラゼ。当たり前だ。
「君は僕に不快感を与えた。それを謝罪せよと言っている」
「ふざけないで!―― ならばあなたこそ謝罪すべきよ。いえ、もう謝るだけでは済まないわ!」
 怒るラゼ。サルンの自己中心的な態度に怒りが出る。
「人間の女を犯したことか? 殺した事か? それの何が悪い? 彼女らは、罪を償ったんだ、人間の代表としてな」
「馬鹿者!――」
 怒鳴ったラゼ。ラゼはサルンよりも3つほど年上だ。

「サルディーニ! どうしてあなたはそうなのよ!」
 お姉さんの立場で物を言うラゼ。しかし、サルンにはもう通用しないだろう。
 まったく意に返さない少年。

「もう一度言う、謝るんだ、ラゼ」
 平行線の会話だ。もう意味はない。
「うるさい、この馬鹿者!――」
 すると不機嫌になるサルン。ゆっくりと立ち上がった。

「サルンさま!」
 制止するランカ。サルンが何をするかもうわかっている。
「ラゼ……君はふさわしくない。弟にはふさわしくない」
「ふざけるな!――」
 切れるラゼ。お姉さん風を吹かす。サルンがゆっくりと近づく。ラゼはハッとした。

 貞操が狙われていると思ったのだ。それは当たっている。だからこそ制止するランカ。

「どけ、この女には躾が必要だ」
 もう、やる気まんまんのサルン。気に入らない女は犯し、男は殺す。もはや独裁者だ。
「サルンさま!」
 必死に哀願するランカ。その時、ラゼが言った。
「ランカ、どいて! やりたいなら、やりたいようにしなさい! わたしは構いません!」

「ラゼ……さま」
 驚くランカ。だが、こういう言い方はこの少年にはもう通用しないのだ。
「いい度胸だね、ラゼ。望みどおりたっぷりしてあげるよ」
 
 ランカを触手と光の玉で突き放した!
 この身体にはもう用はないと言いたいようだ。

「ぐはあっ!――」
 壁に激突したランカ。さらに触手が無数にランカを縛り上げる! しばらくサルンは触手たちを動かしていたいたが、ラゼの方を見た。構えるラゼ。しかし、体力はもうないはずだ。あっても今のサルンには勝てない。

「最後の機会を与えてあげるよ、謝罪するんだ」
「断る!」
 きっぱりと言った。さすが戦乙女。しかし、サルンの不機嫌は絶好調になる。その瞬間、サルンは襲いか掛かったのだった。

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