「ミレーユ殿、感謝する」
 頭を下げるダークエルフの王。
「いえ……」
 ミレーユがめずらしく照れている。実は、宝物庫の鎧などを、寄贈したのだ。

 自治区にある宝物庫は、すべて、自治区の領主の物。その中には、強力な魔法力などを、封じ込めたり、耐性を持っている剣や鎧が見つかった。それを無償で寄贈したミレーユ。

「ラゼは……しばらく私も付き添っていいでしょうか?」
「もちろんじゃ」
 感謝している王。他の王族も同じだ。いよいよ、出発することになった王族たち。 
 ラゼ以外の前メンバーと王、自らが出陣であった。

 ただし、今回も庶民には極秘である。

「いい結果を期待してほしい」
「はい……」
 老人の鎧姿に、気迫を感じるミレーユ。特に、神聖エルフの剣を持っているエルディーニは、気合が入っている。兄に対する恨みを込めるように……

「行きましょう、王よ。今度こそ……今度こそ!」
 語気を強めるラブゼン。
「うむ、では行くか」

 出発した御一行。時間はかかるが、馬で軍隊のように行くようだ。カプセルで飛んでいけば早いが、それでは精神力を疲労することになる。カプセル飛行をした方が、サルディーニには、早く気づかれやすいの。王族同士は、普通のダークエルフよりも、お互いの認識がはやい。

 ほんのちょっとことだが、それでも大事を取る事にしたようだ。ギリギリまで馬で近づき、そこからカプセルで行く。そして、決戦という筋書きだ。


 ――サルディーニ……あのサルディーニが、こんなことになるなんてね。
 昔のサルディーニを知っているミレーユにとって、辛いものがあった。たしかに、いろいろ性格に問題はあったのだが、ここまでのことをするとは思っていなかった。それだけに残念なミレーユ。

「ラゼ……の側にいてあげないと」 
 お姉さんは、勝利を信じてゆっくりとラゼのいる部屋へ向かっていった。




「どう? いいでしょ?」
 うれしそうな、盗賊エルフたち。どうやら服を買ってきたらしい。エルフの貴族が身につける服だ。盗賊メンバーには似合わないと思うが。

「でも、びっくりだわ、こんな物着れるなんて」
「よね〜」
 きれいな服に感動の娘たち。前々から、サルンがどこかで作らせていたらしいのだ。それを仲間の一人が、調達してきたというわけ。

 決戦の前に、身奇麗にするというのだろうか?

「準備はできたかい?」
 サルンがあらわれた……


 おお、これは……派手だ。赤紫の色である。美少年にはふさわしい服。
 襟のネクタイには、バラの紋章が刻んである。さらに、貴族の人間が着るような感じと、エルフが着る服の色合いを、混ぜ合わせたような服だ。

 キュッと腰とお尻ががセクシーに見える点が、特徴。

「サルン、気に入ったわ」
 インリが喜んでいる。
「そうかい、それはよかった。」
 サルンも満足そうだ。この服は、おそらくエルフの国で頼んだものだろう。だが、追われている身、どうやら、裏の方で手を回して作らせていたらしい。ちょうどこの時期に間に合ったというわけ。

 犯罪者になるといろいろ大変だ。

「ところで、マレイアスの方はできたか?」
「たぶんね」
 あまり女騎士のことは、話したくないらしい。するとマレイアスがやってき……た?


 ……な、なんと!



 ドレス姿だ!赤い真っ赤なドレス……



「お、おい! どういうつもりだ!」
 すると返事をせずにゆっくりとマレイアスに近づく。


「美しい……わが后よ」
「馬鹿やろう!」
 怒鳴るマレイアス。怒鳴るのは、ドレスに似合っていない。
「脱ぐ事は禁ずる。勝手に脱いだら、あのお嬢様を殺しにいくよ」
 すろどい目が一瞬光った。
「……お、お前ってやつは……」
 にらむマレイアス。赤いドレスを着て。にらむ相手は、強制的になろうとしている夫……

「みんな、きたる決戦に向けて、心構えをしておいてほしい。君達に必要なことは一つ……」
 と言って、間を置いた。


「見物するだけだ」
 さらりと言ってのけるサルン。渋い言い方だ。

 それを 馬鹿じゃないの? と見ているマレイアス。
 正直ショート髪のマレイアスには、あまりドレスは似合わない。


 ――く、くそっ……地獄に落ちろ!――

 心の中で叫ぶ女騎士。本当に力ずくで后にするようだ。この少年。


 (さて……と)
 ゆっくりと洞窟の天を見る……

 この服を、着させるという余裕……今度は、前回以上、何か対策を立ててくる王族たち、必ず父上は現れると思っているサルン。

 それは当たっていた。

 しかし、この格好は……戦いの礼儀なのだろうか?
 それともこれがサルンの作法の一つなのだろうか?

 舞台はそろった……いよいよ、再決戦が始まる。
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