ふらふらと上へ浮くように逃げるサルディーニ。いずれ、この借りは……という表情だ。プライドはもうボロボロ。ここまで屈辱を受けるとは思っていなかった。

 逃げるという行為はもっとも嫌なことだ。
 王になる予定の者としてゆるされない行為だ。

 ――わからない……なぜ
 そう思った時……

「うわ!――」
 背中がバチンという音とともに弾き飛ばされる!
 一瞬なにが起こったと思うサルディーニ。


「な……なんだ?」
 背中の衝撃は電撃だった。後ろに電磁バリアのようなものが……


 結界……結界か?

 結界? まさか……下にいる者は……もうへとへとのはず……

 しかし、これは明らかに結界だ。すると向こうから……


 二人組みがやってくる……

「だれ……だ……だれだ!――」
 よろけながら少年王が叫ぶ。

 そこにはあの……


 女領主がいた……フィン君と一緒に……


「サルディーニ……」
 哀愁の目で見るミレーユ。どうやらあれからここに、超特急で来たらしい。

 あれから、自分の力が役に立てばと思ったミレーユ。それがいま、役に立とうとしている。状況はもうわかっている。今のサルディーニに、この結界を壊す力はない。

「生きていたのね……本当に」
 ミレーユがやさしい目で、そして悲しい目で見る。カプセルの中で、横にいる少年は、もうこの状況にびっくりだ。

「お、おのれ……」
 牙をむくサルディーニ。だが、むいたところで何が出来るというのか?

「罪を償いなさい。そして、それを導くのが領主の役目……そうも書いてあったわ」
「なんだと?」
 意味がわからないサルディーニ。

「サルディーニ……あなたは本当に……」
 それ以上は何もいえないミレーユ。

「出せ、この結界を解け!――」
「駄目よ、このまま下へ降ろしてあげる」
「きさま!―― この僕の命令がきけんのか!――」
 いきなり領主に命令だ、いまさら何を言っているサルン。

「サルディーニ……」
 結界に押し戻されるように、下へ降ろされるサルディーニ! 少年王が、自治区の女領主に……


「おお、おおおおっ!――」
 逃げられないと初めて、初めて悟ったサルディーニ! いきなり暴れ始めた!

 あの少年王が、常に落ち着いて冷静だったサルンが……



 逃げられない……それは死を意味するのだ……

 この少年の……


 元気なサルディーニなら、こんな結界たいしたことはない。しかし、瀕死のいま、さらに神聖エルフの剣で、傷ついた身体は、相当体力を消耗している。


 見えなくなっていたはずの、マレイアスたちが……点になってきた。
 現実の結果が見えてきたサルン。


 (僕が……この僕が……?)

 赤いドレスがアリのように見える。マレイアスはじっと上を見ていた。
 サルンがくるとわかっていたかのように……


「ミレーユ……」
 ラゼがつぶやく……
 他の王族もこの状況をじっと見守っている。


「お、おおおおっ……」
 後ろからの結界が狭まる、引きずり降ろされる感覚に陥る少年。

「こ、こんな……こんな馬鹿な……」
 喘ぎ始めた、片腕と片方の動く脚だけをバタバタを動かす。滑稽である。

「こんな……ばかなあああああああああああああっ!!――――」


 だが、この滑稽な踊りは、死への誘う踊りだった……
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