「先生!」
 ライファンが、先生の寝室に飛び込んできた。
「なんだ〜」
 さっきまで研究室に没頭していたウッズ先生。もう寝ようかと思っていたその時。

「インリが……インリが」
「ん? 帰ってきたの?」
 眠い目をこする。こういうところは、学者というより、ただの少年だ。

「いえ……魂が」
「なに!」
 ガバッと起き上がる。二人は急いで現場へ急行した。


 先生の研究室……
 まあ、いろいろな材料、装置が並んでいる部屋だ。何に使うのかさっぱりわからない。
 その中に、ランタンのような容器がある。そこに青白い火が……

「間違いない、インリの魂だ」
「…………」
 ライファンが目を丸くする。

「成功した……くくくっ……あははははっ!」
 笑う少年。すると、口元の周りのしわが寄る不気味だ。

「あの……これから……」
「これが出来ただけでも前進だよ。さ〜て……」
 インリが戻ってきたというより、この実験が成功したということの方が重要なウッズ。
 こういう時、学者は人間さえも道具になる。いや、この場合はダークエルフか。

「ライファン、インリはダークエルフの肉体を欲していたよね?」
「はい、出来るなら……と」
「すぐには調達できないけど、手に入れたら今度はその肉体を使ってやってみよう」
 自分で言って、うんうんとうなずくウッズ。

 ――あの呪文が成功するかは賭けだった。実験のチャンスがあればと思っていた。それをインリはいきなりやってくれたよ。

 インリの今後のことより、次の実験データーがほしい先生。

「さて、忙しくなるけど……とりあえず寝よう」
「このままでも大丈夫なんですか?」
「大丈夫、一ヶ月ほどは保存できるはずだ。僕は天才だからね」
 自身満々の少年先生。
「それより、どこで離脱したかわからないけど、今頃、肉体は大変なことになっていると思うよ。ふふふふっ……」
 また笑う。醜い顔になる。


 こうしてインリは代わりの肉体をもらう事になる。



 その大変な状況の肉体……
 そこではパニックになっていた。次の日の朝、見回りの者が、ぴくりとも動かないインリ見て、不思議に思い、肩を揺らしてみると……

「こうなっていたというの?」
 鼻をつまみながら言うランカ。ものすごい悪臭。

「どうなっているのでしょうか?」
 目の前にあるインリは、腐乱死体になっていた。ボロボロの肉が溶けた状態になっている。顔も崩れているのだ。これはもう見るに耐えられない。

 ――こっちが聞きたいわよ。
 昨日から、いきなりの展開に頭がパニック状態の女連隊長。ふ〜っと一息つく。

「とにかく……ここから出ましょう。あ、これを冷凍保存するように言っておいて」
 保存して、どうやら第三者の知識人に見てもらうようだ。この悲惨な現状を。

 ――もう、いいかげんにして……どうかなりそう。

 昨日、あれだけインリの偽者と言い合いをしたランカ。
 一部のダークエルフ、人間にしか知らないことを、次々と話したインリの偽者。
 それが次の日には腐乱死体になっていたのだ。たった一日で。
 頭がパニック状態になるのもわかる。

 今のランカに出来る事は、それが精一杯であった。

BACK NEXT TOP