「ふ〜ん、ツエペリか」
 笑う少年ウッズ。
「それと、エリン皇国の方に行っていると言ったっけ?」
「うん、たぶん」
 インリが答える。

 ――なるほど……ね。
 ちょっとムッとするウッズ。

「先生……」
 心配そうなライファン。まるで弟を心配しているようだ。

「あの老人は、ダークエルフの霊媒師のトップの人物だ。そいつが動いているのか……」
 笑う少年。

「え? トップ?」
 ライファンがびっくりする。
「やっぱり、ダークエルフも本気になってきたようだね」
 さらにせせら笑う。

「私達がでしゃばったせいでしょうか?」
「構わない、目だって貰わないと、研究の証明が他人に見れないだろ?」
 死人返りを成功させた大事な証明品だ、二人は。

「どんどん、見せ付ければいい。奴らの慌てふためく顔が見えるのが気持ちいいんだ」
 あざ笑うウッズ先生。
「でも……」
 それでは、ウッズの身は危ない。

「だから強くなって、僕を守ってほしいんだよ」
「うんうん、だったら強くなる方法探してよ」
 インリは楽天家だ。

「わかったよ」
 インリの言い回しが気に入ったようだ。少年がちょっと笑みを受かべる。
 人間であるウッズでは、薬などを飲んでも強化なんてたかが知れているのだ。

「ライファン、君はよかったのか?」
「え?」

 出来上がった薬の効果を調べた時、魔術師の能力が身についたインリ。
 ライファンも続いて飲んだのだった。
「君は、強くなるってこと、興味がなかっただろう?」

「いえ……」
 ライファンはインリのために飲んだのではない。

 先生のために……

 その先生は笑っている。
「さ〜て、これから面白くなりそうだ」

 ――あちらさんはどう動くかな。
 にやっと笑う。天才少年の目が光った。

 知れたのならそれはそれでいい。研究成果を見せ付けられる、いい機会なのだから。
 だが、捕まっては困る。

 ――ちょうどいい……あれで脅してやろう……
 にやっと笑うウッズ。ウッズの反撃が始まる。



 そのあちらさんのランカ御一行。
 エリン皇国には10日後無事到着。すぐさま、大学へ向かったのだった。

「こちらでお待ちください」
「うむ」
 待合室に案内されるランカとツエペリ。しばらくすると、女性がやってきた。

「ツエペリ先生」
 にこっと笑う女性。年は30前後ぐらいか?
 大人しそうな顔立ちだ。めがねをかけている美人。身体は結構むっちりタイプ。
 ランカとは対照的。

「これはこれは、リース教授」
 にっこり挨拶のご老人。
「初めましてランカと申します」
 リースがランカを見る。軍服にちょっと驚く。おまけにダークエルフの軍人だ。

「では、私から話そうかの」
 ツエペリが詳細を話し始めた……



 数分後……

 めがねをかけた美人教授が、重い口を開けた。

「おそらく……間違いないと」
「そうか……」
 悲しそうなリース教授。弟子の暴走に、いてもたってもいられないのだろう。

「見せてもらえるかな」
「あ、はい……」

 ツエペリは、ウッズがかつて使っていた部屋を見たいという。そこにある研究資料などを閲覧したいらしい。早速向かう三人。

 とはいっても大部分は処分されていた。

「どうです?」
 ランカが老人に聞く。
「ま、考えていた資料や書物があるという程度かの」
 霊能学、霊媒師、人間生理学……

 霊関係と人間の仕組みの本がずらりとある。こうやって徹底的に研究したのだろう。

「でも、ココを使えなくなったというのは、向こうにとっては困るのでは?」
「ランカ殿、それは違う」
 老人が言い返す。

「学者というのはの、天才クラスになれば、一度読んだ事はすべて頭にインプットされるものじゃよ」
「…………」
 驚くランカ。ページ数でいえば何万ページ分はあるだろう。すべての書物だけでも。

「ふぉふぉふぉ」
 笑うツエペリ。
「先生、ウッズは……完成させてしまったのでしょうか?」
 不安な目で言うリース。
「うむ……わしは見た。ここにいるランカもな。すべての状況を合わせれば、あれは間違いなく死人返り」

 続けて言う。
「さらに魔術師の素質がないダークエルフの者が、ロッドを使って、攻撃触手を操っておったわ」
「え?」
 驚くリース。

「これはなにかあるのじゃ。このままではいろいろと、やっかいになりそうなのじゃよ」
「…………」 
 悲痛なめがね教授。

「そのウッズとかいう少年のことを、もっと教えてもらえませんでしょうか?」
 ランカはウッズのことが知りたい。
「ええ、なんでも聞いてください」
 申し訳なさそうに言うリース。

 かつての教え子が、邪法を使って、
 こともあろうにダークエルフを生き返らせるとは……

 ――どうして……どうして。
 悔やんでいるようだ。リースは。

 そのリースにランカが質問を始めた。


 ウッズ少年は、この国で育った。そして、すぐに天才的な学力を発揮。
 将来を嘱望されていたらしい。最初は、純粋な人間学などを学んでいたが、次第に、霊や、霊能学、死体との魂の関係などに興味を持ち、考えがゆがんでいく。

「わたしが間違っていたのかもしれません」
「霊や死体と魂の学問を教えたからですか?」
「ええ……」
 うつむいて言うリース。教えたきっかけはこの女教授だった。

「聞かれれば教えるのが、学問じゃ。そしてそこから広げていくのは、己自身よ」
 擁護するツエペリ。

「それで、結局……行方不明に」
「ええ……」

 死人返りの研究に夢中になり、本気で実験をやろうとしたウッズ。そして、それがリース教授に知られ、学会に報告。

 当然、処分を決めるために、出頭要請。それに嫌気がさして、逃げた……
 いまや天才もお尋ね者である。

「どこにいるか、わかるかの?」
 首を振るリース。一緒にプルンプルンと胸が揺れる。

 聞けたのはこれぐらいだった。書物もみな調べたが、手がかりはなしだ。
 教授のいる大学を出る二人。


「どうしましょう」
「う〜む」
 次の行動が決まらない。とりあえず、ウッズが関係していることは確かだった。

 その時……

「ランカ大尉!」
「どうしたの?]
 部下があわてて駆け寄ってくる。

「大変です、カリーバス駐屯地に……」
「カリーバスがどうした?」
 カリーバスとは、ランカたちがいた駐屯地の事だ。
「大量の触手群が現れたとか……」

「触手群?」
 なにって思うランカ。

 いきなり大量の触手群が、駐屯地に襲い掛かり、退治はできたが、大変だったというのだ。

 ――どういうこと?……
 ランカが考える。

 いよいよ、ウッズも反撃を始めた……

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