二時間後……

 メロメロになった少女が、横たわっている。その横に翔子もだ。

 ――つ、疲れたわ……
 さすがの翔子も、くたくた。しかし、虜にさせるためには、徹底的な仕込が必要なのだ。
 横には、舞が寝込んでいる。それを見て、軽くうなずく。

 ――だいぶん……効いているわね。
 必死にやったことは無駄でないと確認。あの喘ぎ声ならOK。

 疲れた身体をベッドから降ろす。完璧な裸体もちょっとやつれ気味。
 横でぐっすり寝ている舞を見ながら、翔子がシャワーに向かった。
 こうして、舞は……

 翔子の味方になりつつある。



 数日が経った……

 舞はすっかり翔子の虜だ。これで仲間が二人目というところ。
 ここ数日は、何事もなく進んでいる。
 学科によって、いろいろな先生の名前も覚えていった。

 男の先生、女の先生……

 ――いい男はいないわね。
 男の先生に、気に入った人物はいないようだ。では、男子部はどうだ?

 実は、男子部にはまだ行ったことがない。というか、学校行事がある時しか、交流がないのだ。もちろん、放課後は自由だが。

 友達に誘われているが、まだ行く気にはならない。

 学園自治区のような商店街には、男子学生もいっぱいいる。
 しかし、お目当てというほどの人物はいない。
 以前、優実が紹介したのには、ぎりぎり合格レベルが一人いたぐらいだった。

 ――あ〜あ
 先生にも期待するレベルがないので張り合いがないらしい。
 すると、別の張り合いがある揉め事が始まった。

「ちょっと書いただけじゃない!」
 優実を睨む女学生が一人。

 あの優実を睨むとは……
 
 このクラスの人間ではない。でないとこういう態度は無理だ。
「ちょっとですって〜 こんなことをされたら、不愉快になるのもわからないの?」

 ――何を揉めているのかしら?

 どうやら教科書に落書きされたらしい。よりのよって……


 優実の……に。

「知らなかったのよ。あんたのものだってさ。知ってたら、誰が借りるものですか!」
 
 事情はこうだ。優実の友達から教科書を借りた。
 その教科書に文句を言っている女学生は、好意的に落書きしたらしい。
 ところが、これは優実が友達に貸していた教科書だったのだ。

 いわゆる又貸し。

「なんですって?」
 優実の態度が変わる。ぶりっこが消えた。
「亜津子のババアのイソギンチャクの分際で、生意気なのよ!」

 おお、亜津子お嬢様を批判するとは!

「お姉さまを侮辱するのは許せないわね」
 感情をむき出しにして怒る優実。かわいい顔が、ヒステリックになる。

 ――ふ〜ん、なかなか言うじゃない。でも……

 亜津子は三回生だ。この娘は二回生のバッジをつけている。クラス的にいえば、優実や翔子と同じ。あの亜津子は、三回生で結構力を持っている。

 なのに……

「ねえ〜 あの子、後ろに誰かいるの?」
「あ、感がいいわね、さすがは翔子ちゃん」
 横にいた子が、答える。

「それにババアなら、あんたのメスボスの方がお似合いと思うけど」
 言い返す、優実。今度はメスボスときた。

 メスボスってなんだ?

「優実……」
 今の一言は効いたようだ。聞き捨てならないその一言。

「あなたわかってる? その言葉を言って、無事に済んだ者はいないのよ」
「筋肉馬鹿にはふさわしい言葉じゃない」
 さらに馬鹿にする丸山優実。一歩も引かないようだ。

 相手の女の目が釣りあがった!

「覚えていなさい!」
 くるっと回って帰っていこうとする。すると、その瞬間、翔子と目があった。
 ニコッと微笑む翔子。

 それに何かを感じた娘。

 だが、今は相当むかついている。

 が……その心が少しだけおさまる。

 そして、ここで引いたほうがいいと思ったのだろう。
 さっさと自分のクラスに帰って行く。

 すると、優実に近づく数人の女たち。

「あの〜今回は許してあげてよ」
「ま、まゆみが言うならそれでもいいけど……」

「さっさと逃げちゃったね、あいつ」
 別の子が言う。
「ふん、根性がない証拠よ」
 笑う優実。意地の悪い顔だ。だが、それ以上は執拗に攻めようとはしなかった。
 まゆみという友達に止められたからだろう。

 すると、休憩時間が終わるチャイムが鳴る……

 女の戦いは終わった……


 ――面白いわ。それにしても、優実の性格なら……
 まだまだしつこく食い下がると思っていた翔子。優実の性格なら逃げたって追いかけるような雰囲気だからだ。
 
 ――やっぱり、後ろに誰かいるのね。

 すると目が合った……ぶりっこ娘と。

「嫌な女でしょう? 勝手に落書きする癖があるのよ」
「あなたが貸したの?」
「違うわよ」
 プィと怒る。かわいい顔だが、これが怖い。

「まゆみが貸したのよ。私のをね」
 まゆみとは、優実の友達の一人だ。
「だったら仕方ないと思うけど」
「私は落書きされるの嫌いなのよ〜」
 甘えた声で言う。そして、さりげなく後ろから翔子の肩を持つ。

 実に仲むつまじい二人……
 まるで姉妹だ。


 だが、周囲はその雰囲気とは違う、ピンと張り詰めた空気におびえる。
 
 ――結構、胸あるじゃない。こいつ。
 心でむかつく優実。

 怖い怖い……

 異常な雰囲気が漂うのだった。

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