生徒会に入った翔子。最初はいろいろな活動を教えてもらう立場でもある。
 だが、すぐに頭角を現していく。元から指導力はあるのだ。
 冷静な判断力、秀でるリーダーシップ、そして憎めない魅力……
 翔子は生徒会の二回生でも人気者だ。だが、当然敵も作る。

 ――あれが翔子……
 ――優実の大のお気に入りらしいわよ。

 この意味は逆の意味だ。数人の娘が、翔子の噂話をしている。

 ――優実に狙われているのなら……いずれはもたないと思うけどなあ〜

 餌食にされると思っているのだろう。だが、今のところ攻め手はないようだが。
 とにかく目立つ翔子。一時たりとも存在感が消えることはない。生徒会活動も日増しに要領を得ていっている。いずれ、雑用ではなくそれなりの役をもらえる日も近い。

 ――会長のお気に入りというのがネックよね。
 ――そりゃ手も出せないかも……

 いきなり頭角をあらわせばどうしても妬む者もいる。仕方ないといえばそうだが。
 さらに生徒会長のお気に入りでは、なおさらだった。

 ――会長のお気に入りって……すごいのね。
 今更ながらその影響力を実感している翔子。
 なんとなく気を使われているのがわかるのだ。
 
 ちょっと疲れたらしい。
 生徒会の一室で休憩中。
 椅子にすわり、クイッと足を組んで太ももをあらわにする。

「まあ、うまくいってるわね」
 一回生の後輩ともすぐに仲良くなった。気に入らないようなタイプもいるが。
 問題は三回生だ。視線がきつい先輩が多い。

 ――妬みは慣れてるわ。美しい者の宿命よね。
 まるで私の美しさを妬んでいると決め付けている。
 そうじゃなくて、その存在感が嫌な人が多いのだが。

 ちょっと疲れいる。顔がゆがむ。すると誰か入ってきた。
「あら、翔子さん」
「あ、こんにちは」
 にこりと微笑む。入ってきたのは生徒会長だ。周りに数人取り巻きがいる。
 みんな生徒会の人たちのようだが。

「お休み中?」
「はい」
 仕事が終わってちょっと一息というところ。
「……後で…来てもらえる?」
「え?」
「私の部屋に」
 部屋というのは生徒会長室。
 その言葉に周りの者が目を合わせる。

 ――いきなりなにかしら?
 今は、生徒会長から直接指示を受けるものはないのだが。
 だいたい新入りに生徒会長が指示することがないのだ。

「はい」
 微笑んで答える。そう言うと会長は出て行った。
 ちょっとだけ取り巻きの視線がきつい。

 ――あのイソギンチャク連中って……何者かしら?
 ああいうのは苦手。しかも会長は会うたびに取り巻きが違うのだ。
 これはある意味すごい。

 さすがは親衛隊のようなファンを持っているだけはある。

 ――あんなのがいつも側にいたら、落ち着かないと思うのだけど。
 正直うざいと感じる翔子。いつも誰かに護衛されているようなものだ。
 コキコキと首を鳴らす。そのたびに美しい髪がファさっとゆれる。
 
 それから数分後、やれやれと翔子は会長室へ向かった。



 生徒会長室に入った翔子。初めて入る部屋だった。そしてその麗しさに驚いた。

 ――な、なによ……ここ。

 ずら〜と並んでいる歴代生徒会長の肖像画がある。
 どうやら生徒会長になると、肖像や、彫刻、写真が飾られるようだ。
 さらにコーヒーメーカー、テレビ、パソコン、デジカメ、クーラーなんでも揃っている。 隣はキッチンだ。寝室さえある。いいご身分である。

 もはや寮の一室、いや、マンションの雰囲気だ。

「何でも揃ってるのよ、ここ」
「すごいですね」
 さすがにここまで贅沢とは思っていなかったらしい。
「ふふふ、先代の会長は、ずっとここに住んでいたそうよ」
「え?」

 会長室に住んでいた?

「座って」
 ソファに案内された。ふっかふかのソファ。
 もはやマンション並の様相だ。
 まあ、テニス部の秘密の部屋に特殊部屋があるぐらいだ。
 これぐらいは当たり前なのだろう。さすがはお嬢様学校である。

 選挙で当選して選ばれた者の特権なんだろう。

「どう? うまくやっているかしら?」
 麗しき微笑で問いかける。どうやら会長じきじきにコーヒーまで入れてくれるようだ。
 本当なら翔子がしないといけないのだが。

 その微笑に、はきはきと答える翔子。
「はい、順調です」

「そう、それはよかったわ」
 ことりとコーヒーを置いて海道美知も座った。ちょっとだけ如月翔子を見る。
 意に返さない態度、はっきりと物を言う姿勢、

 ――自由……よね。
 心でつぶやく。

 そして今度は声でつぶやいた。

「あなた……亜津子が立候補したら……応援するのかしら?」
「え?」
 突然、聞かれた。この前もだが。
 ちょっと戸惑う。

 ――どうも、この人……次の選挙でお悩みのようね。
 ちょいと考えて、
「私はテニス部の部員ですから、何もなければ多分……」
「本当に?」
 念を押された。

「もしかすると……場合によっては……逆のことするかも」
 うふふと笑い返す。その亜津子とはまさに敵対中。
「その場合は麻里華を……かしら?」
「麻里華って副会長の?」
「そうよ。生徒会副会長の三瀬麻里華……会ったことあるかしら?」
 
 ――そういえば、みたことないのよね。

「会ったこともない人を、応援するつもりはありませんわ」
 はっきり言う。
「そう」
 そのハキハキさに納得する美知。まだ麻里華は近づいてないと判断。

「あなたって……自由そうね」
「え?」

 自由?
 よくわからない翔子。

「うふふ」
 微笑んだ。その笑みにちょいと驚く二回生。


「そういえば……副会長って本当に見ませんわね」
 今度は翔子が聞く。
「……たまにしか来ないのよ」
 気まずそうだ。

 ――たまにしかこない? それでも副会長?

「私が許してしまっているのが悪いの」
「……」
 会長が弱気だ。いつもの微笑が消えた。
 
 ――いろいろとありそうね。
 
「あの〜本当に立候補しないのですか?」
 逆に翔子が聞く。
「ええ、そのつもりよ」
「会長はどっちになってほしいのですか?」
「私はどちらの味方もしません」
 スッと立ち上がって窓の外を見る。もう夕方だ。

「どちらがなっても、いろいろと大変だとか……」
「ええ……」

 学園中のうわさである。亜津子がなろうと、麻里華がなろうと、どのみち学園に平和はない。真っ二つに割れたまま、学園を運営していくことになる。

 だからこそ、海道美知に立候補してほしいのだ。それが一番丸く収まるのだ。
 
 だが、当の本人は迷いながらも意思は固い。
 なんとなくソファから窓を見ている本人が、またくるりと二回生に振り向いた。

「翔子さん、あなた役付きになる気あるかしら?」
「役付き?」
 またも、いきなりの言葉。
 役付きとは、生徒会の役員になることだ。

 しかし、入会してまだ一月もたっていない生徒を役付き?
 いまやっているのは、クラブのいろいろな申請を処理している事務のようなもの。
 それでももう、リーダー的になってはいるが。

「あなたにはリーダーになる素質があるわ」
「別にいいですけど……」
 いきなり何を言うのかと思う。

「でも、私みたいな新人が、いきなり役を貰ってもいいのかしら?」
 念を押す。だが、その念を押すのは翔子らしくない。
 いつもの翔子なら当然といった雰囲気を出すのだが、おそらく猫かぶっているのだろう。
「大丈夫よ、私が推すから」
 うふっと笑う。その微笑がじつに高級だ。翔子とは違う。

「でも、どうして私を?」
「素質がある人にそれなりの役を与えるのは、会長として必要なことよ」

 ――まあ、確かにそうだけど。
 当然といった雰囲気。
 だが、翔子はそれ以外もあると思っている。多分そうだろう。

「じゃあ、良いわね? 翔子さん」
「はい、でも何を……」

 そうだ、何をするんだ?

「風紀委員よ」
「え?」
「風紀委員の二回生副委員長になっていただくわ」

 風紀?

 風紀委員?

 
 翔子に風紀を取り締まれというのか?
 風紀を取り締まるより、翔子を取り締まった方が……

「嫌かしら?」
「い、いえ……」
 正直驚いた翔子。抜群のおっぱいがビクッと動く。
 まさかこの翔子に風紀委員とは……

「明日にでも、議会にかけて承認を貰うように進めるわね」
「あの〜」
 伺いたいことがある翔子。

「何かしら?」
「二回生の副委員長って……確かもう……」
 二回生の風紀副委員長はもう別にいる。
「別に何人いてもいいのよ」
 気にしないでという表情だ。
「え?」

 その言葉に翔子が意外な顔をする。よく聞くと、委員長は三回生一人だけだが、副委員長は何人いてもいいらしい。生徒会長が許可すればいくらでもいてもいいというのだ。
 
「いいかしら? あなたを推薦しても」
「はい、喜んで」
 拒否する理由がない。それに風紀委員とは面白そうでもある。

 その様子を見てうらやましく思う海道美知。

 ――こんなにハキハキする人……久しぶり。

 うらやましいらしい。
 翔子は引かないタイプだ、調整するようなタイプでもない。

 対して会長は違った……

 ファンクラブや親衛隊はすごいが、所詮烏合の衆。
 さらに今の生徒会は亜津子と麻里華の争いがすごい。その調整役ばかりしている美知。

 これがもう嫌になった事の一つでもある。


「じゃあよろしくね」
「はい」
 とうとう引き受けた翔子。
 雑談を交わした後、部屋をいそいそと出て行く。

 歩きながら考える……

 ――生徒会長になると、あの部屋でくつろげるのか……
 翔子のいる寮より豪華だ。もちろん、海道美知はあそこで生活しているのではないが。
 贅沢もいいところなのだが、この学園では選挙で選ばれた者の特権らしい。

 ――いいわね……あの待遇……シャワー室まであったわ。あそこに住めるというのは本当ね。

 ――そういえば……副会長も……
 あの待遇は、生徒会長だけではない、生徒会副会長もそれに近い物があるらしい。

 早速、あの部屋がほしいと思った翔子。だが、風紀副委員長ではあの部屋は無理だ。

 ――そうだわ、会長にはなれなくても……

「副会長になればいいのよ」
 二回生は生徒会長にはなれない。が、生徒会副会長には、生徒会会長が指名すれば、二回生でもなれる。

「生徒会副会長の地位を手に入れないといけないわね」
 生徒会副会長になること。それが如月翔子の当分の目標になった。
 正直、あまりそういう地位には興味なかった翔子だが、あのマンションはほしい。

 だが、まずは風紀委員副委員長だ。

 しかし、それさえある壁があったのだ。

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