「あ〜あ、俺達は外で飲むとはな」
 ワインを飲んでいる騎士たち。本来ならこんなことは言語道断なのだが、今日はお守りをしているのは、擬似貴族娘たち。だからOKというわけだ。

「ちぇ、少年ばかり見てもつまらんわ」
 回りには一切女がいない。メイドのための晩餐会だ。だからすべて少年ばかり。

「騎士長もそうは思いませんか?」
「愚痴をいうな、私はそうは思わん」
 リシュリューは冷静だ。

「まったく、なんでメイドを警護なんぞ……」
 こちらはウイスキーをがばがば飲んでいる。
 だがこういう行為をしているのはミセルバの騎士だけではない。

 あちこちで別の家の騎士たちも同じようにお酒を飲んでいるのだ。こちらも500人ほどの人数がいる。たくさんの馬車がある。まるでご主人様を待っているかのように。

 すごい広い敷地だ。そうでないとこれだけの馬車を並べて置くのは到底無理だろう。
 財力のすごさを見せ付けられている。

「メイドを警護しているのではない、ミセルバ様の服を警護しているのだ」
「何回目ですかな……それを聞くのは」
 酔いながらもう飽きましたよ騎士長という顔をしている騎士。
「ふふ……」
 宮仕えとはこういうものだ。

 と、その時。

 ――ん?

 なにやらうちの騎士の一人が男と話をしている……






「で、帰りも同じ馬車か?」
「多分……」
「わかった」
 騎士に軽くうなずく男。黒い鎧を着ている。

 黒系はほとんどがツス家の騎士だ。肩の紋章がそれを証明している。蜂の紋章が不気味に見える黒の騎士。逆にアウグス家は白い蜂の紋章だ。白と黒の交互の紋章……

 これがただの二つの貴族の家とは少し違う、因縁でもある。

「リシュリュー殿にだけは気をつけろ、あの方はなかなかキレル方だ」
「わかっている……ではな……」
 そういって去っていく黒騎士の男。
 逆にミセルバ様のアウグス家は白の紋章に合わせて白系が多い。
 

 ……

 …………

 なんとなく気になるリシュリュー。だがこういう光景は普通よくあることだ。
 しかし今、なぜか気になる……


「騎士長殿、これはいけますぞ〜」
 かなり酔っているようだ、騎士長に酒を勧める騎士。
「そうか……後で飲んでみようか」
 そういいながらもじっと部下の一人を見るリシュリュー。

 なんとなく……


 なんとなく……気になっていた……






 部屋でダルマさんがワインを一気飲みしている。ふてくされている。

 ――くそっ……なにもこんな日に……



 ――わざとか!……


 腹立たしいミツアーウェル。だがここで愚痴をいうだけだ。
 リリパットとはさすがにもめたくない。
 本気でもめたら下手すりゃ共倒れだ。同じ家同士での争いは避けたい。
 
 しかもこんなことで……
 だが、どうしても気に入らない。確かに必要ならそういうことをすることも昔はあった。

 
 逆らった成金――


 貴族――


 裏世界の男……――


 みんな潰してきたのだ、アウグス家と共に……しかし、


 ――わしがこの晩餐会を主催しているのを知って……あてつけか。


 椅子に座っておおきなお腹が深呼吸。
 
 ――わしは……わしは……なんのために……


 冗談じゃない、リリパットの餌の前準備のためなんかじゃないわ……

 …………

 ……


 ――まったく……せめて別の日に……


 ――いや、許せぬ。 あの男の女に対する考えだけは容認できぬ時がある。


「が……無駄か……あの性格ではの……」
 

 せっかくの楽しい晩餐会が最悪の気分である。


「だんなさま」
 部屋に側近の男が入ってきた。

「おお、なんじゃ」
 そっけない。

「もうそろそろ最後のごあいさつを……」
「今日はもうよい、だれか代行してはくれぬか?」
「はあ……そうですか」
 いつも最後に必ず挨拶をするはずのミツアーウェル。それどころか本来なら擬似貴族娘たちと楽しく戯れているはずなのだ。
 何かあったということはこの男にもわかったようだがあえて聞かなかった……



 部屋を出て行く男……

 とても今日は最後のあいさつなぞしたくもない気分。
 愛嬌のある顔は悲しそうな顔をしていた。

 



 もうすぐ晩餐会は……終わる……

 
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