お城


「きゃー、すご〜い」
 看護婦の一人が奇声を上げる。
「こら、静かにしないか」
 ライザがすかさず注意した。すこし彼女は緊張しているようだ。看護婦達が驚くのは無理もない。見慣れている者は別になんとも思わないが、始めて見ればこの大広間の見事さに感動するのは当たり前であろう。
 いたるところに豪華な装飾が施されている。金や銀、胴、高級な金属はすべて使われてると言ってもいい。御座の周りには主を守るように左右に黄金の鎧が飾られている。あれ一つで、へたすれば平民にとっては一生遊んで暮らせるほどの代物だ。
 そうこうしていると御座近くの扉から5〜6人の兵士に守られるように御領主様がおいでになられた。
ミセルバである。今日もいつもながら美しい。いつみても彼女の豊満な胸は見飽きることはない。ミセルバはゆっくりと椅子に腰掛け、
「ようこそライザ殿、私がこの城の主、ミセルバです」
 ライザ達は深々と一礼した。先ほどまで黄色い声を上げていた看護婦達も、緊張している。相手はこの地方一体を治める広大な土地を統治する大貴族。当然と言えば当然であろう。
「あなたのお話は聞いています。よろしく頼みますよ」
「はい、命を懸けまして、御領主様の御身体をお守りいたします」
「うんうん、良いこころがけ。うれしく思います。頼みましたよ。そうそう、他の者もよろしく」
「はい、おまかせください」
 そう言って、ライザはまた深々と頭を下げる。ミセルバはにっこりと微笑んでライザを見つめていた。





「わあ〜すごい」
「以前の診察室とは雲泥の差だな」
 ズラッと並んだ医学書、まるで図書館のようである。設備も中央の大学でしか持てないものばかりだ。看護婦達は、ただただ驚くばかり。中央の都ではこれぐらいは当たり前なのだが、彼女達は地元で雇ったものばかり、これが現実というものだ。
 さて……明日から忙しい、その前に。
 ライザは白衣をもう一度チェックして、部屋を後にした。




まず最初に向かったのは、ミセルバ様の妹君のアーチェ様のお部屋。アーチェ様は16歳になられたばかりのお方。
「ほう、めずらしいの、女の医者とはな、そなたは優秀な方であったのか?」
「あ、そ……そこそことは私も思っております」
「ほう、そこそことな」
 じっとライザを見つめながら、16の御令嬢はなにやら考えているようだ。性格はあまりいい方でなはない。しばしばメイド達ともトラブルが絶えないのだ。しかし筋が通らない事は許さないというタイプであった
「姉上をどう思う?」
「あ、あの立派な方かと」
「本音を言ってみよ」
 そう言ってアーチェは、ライザにすうっと近寄りあごの付近をいきなり撫で始めた。一瞬シーンとした雰囲気があたりを襲う。ライザは少し驚きを隠せなかった。16の娘に、いや御令嬢に…いきなりあごを撫でられるとは
「ふふふ、もう良い。そなたはいい人みたいだな」
「あ、あの」
 元の椅子に着いた御令嬢は椅子に肘をついて彼女に問いかける。
「では私と姉上どちらが綺麗か」
 一瞬下を向くライザ。こういう質問には困ってしまう。するとアーチェは、
「ふふふ、もう良いそなたやっぱりいい人だな」
「は?」
「以上じゃ下がってよいぞ」
 これが今日のアーチェ様とのやり取りであった。

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