貴族虐待新書


 あら、これって……。

 ――SとMの解体新書――

 本の表紙にはそう書かれている。妖しげな男女が交わり、その後ろからムチで二人が打たれている様子が描かれている。
「解体新書だよこれ、焼き捨てないといけなかったはずでしょ?」
「そうね、20年ほど前ならね」

 解体新書……別名貴族虐待新書といわれる本だ。これは30年前にある女が命を掛けて書いた本なのである。その女は貴族の男からひどい性的虐待を受けていた。だがしばらくしてからそれから逃げることには成功。しかし今度はまたもや仕える貴族の女から性的な暴行を受ける。この経験が貴族の地位等に強い不満を覚え、本の中で貴族の男女を平民がいたずらや、辱めを与えて民衆が喜んでいるような小説や、嬲りかたを解説したりしているのだ。
 表向きはただのSM小説だが、内容は明らかに貴族に対しての怨念がこもっているものだった。当然こんな本を貴族の人間が認めるはずはない。すぐに捕まり、侮辱罪で投獄。そして反省の色がない事を理由に処刑された。
 本も発禁され抹殺されたことに表向きはなっている。しかし、巧妙に残す者は必ずいる。闇市などでは高く売れ、また写しを販売して儲けているものもいるのだ。しかしそのほとんどには表紙にはなにも書かれていない。発見されにくくするためでもあるし、その絵を書けば罪になるようになっていたからだ。

 これって初版された原版かも……。
 リリスはそう思った。絵があまりにも古い事、そして本がぼろぼろ状態である事もそう思う理由の一つだ

「でも結構まがい本なら持ってる人いるよ。もうそんなにきびしくなくなったしさ」
「ねえねえこれってどんなこと書いてあるのですか?」
「読んでみれば?」
「え〜やだこわ〜い」

 ――あ〜あまたモーラのぶりっこが始まった……。

 リリスがクスッと笑う。それにしても、ここって歴代の御領主様が使ってたのよねえ〜こんなの読みたがってたのかしら。ちと不思議に思うリリス。

 でもこれを今のミセルバ様が読んだら……どうなるかなあ。

みるみる心の中で淫らな気持ちでいっぱいになる。もし予想した通りになれば……いよいよ。状況によっては新たな段階への一歩を踏み出すことになるかもしれないリリスであった。
後ろ トップ