「姉上に会うのも三日ぶりですね」
「あなたは……おなじお城にいるのにホント、食事の時ぐらい私に合わせる気はないのですか?」
 ミセルバが半分呆れ顔で言うのも無理はない。同じ城にいて三日も顔を会わせないのが普通のことになってしまっている。

 ――アーチェ。ミセルバ様の妹君。

 彼女がミセルバと顔を会わせる機会は確かに少ない。ミセルバが公務中は毎日のように外に出掛け同じ貴族の友達と遊びまわっているのだ。よその屋敷に泊まることもたびたびある。だから食事もお城で取らないことが多い。

「申し訳ありません姉上、なにせわらわは忙しいゆえに」
「忙しいのは遊びに……でしょう?気楽でいいわね、アーチェ、でもいずれはそうはいきませんよ」
 ミセルバがテーブルをこつこつと人差し指でたたく。こういう時はだいたいお小言を言うときにするしぐさだ。
「わかっております姉上」
 にこっと笑って微笑み返すアーチェ。16歳になられたばかりのアーチェ様。ぽっちゃり型だがスタイルはいい。胸はこじんまりとして巨乳ではない。まあ貧乳というと失礼かもしれない。乳が発達途上と同じように、まだまだ幼いところが見えるのだが。貴族としての気品が見え隠れする年齢でもある。いずれはどこぞへ嫁ぐことになるのだろうが。
 それにしてもテーブルの上の料理はこの二人だけで食べきれるとは到底思えない。あきらかに最初から残ることは目に見えている。贅沢とはこのことだろう。今日は、クローザー様はお友達の屋敷にお泊りらしい。姿は見えない。

「ところで姉上、また捕まったようですな」
「捕まった?」
「ご存じないのですか?虐待新書を闇で売っていた者がまた捕まったとか、懲りませんねえホントに」
 
 虐待新書――そう聞いたとたん心がビクッと動く。

 ここのところちょくちょく読んでいるのだ。もちろんあの地下牢で・・
「ああっ、そうなの」
 まるで興味がないようなそぶりで言い返す。だが貴族の者達には今、関心が高い。いばってばかりいて 庶民に耳を傾けない御領主等は、やはり反感を買われている貴族に入る。そういう貴族の人間に限って、取り締まれとうるさいモノだ。ミセルバは庶民の言葉にも耳を傾ける方なので、あまり意識はしてないかもしれない。

 だが違った意味で今は興味深深だ。あの本は読めば読むほど引き込まれる。短編小説もあり、SM道具解説もあり、貴族の男や女が徐々に追い込まれて陵辱される過程や方法が克明にエッセンスのように入っている。それを見て怒らないミセルバもどうかと思うが。

「あのような本は早くきれいになくしてほしいものです」
「まあ、仕方ないのかもしれません、私もなんとなく気持ちがわかる時もあるわ」
「姉上はおやさしいですな、私はとてもそこまで」
「ふふ」
 微笑むミセルバ。他の者達も少し頬が緩む。他の者とは側についている者のことだ。メイドが2〜3人、料理の詳細を申すコックが一人、側近の下の位の者が2人、そして、ん?白衣をきた男と看護婦が二人
 なぜここに医者らしきもの……。

 これには理由がある。もしも毒でも盛られていてもすぐに対処できるようにしてあるのだ。だがそれならばライザを使えばいいと思うのは私だけではあるまい。実はこの男は、毒物専門医なのだ。毒物専門医とは普通の医者とは違い、特に毒物に関してはエキスパートである。毒を盛ることは、ないとはいいきれない。やはり用心にこしたことはない。
 しかし側にそんな医者がいて食べるというのも……なんか嫌なものだ。やはりいろいろ大変である。
 だが媚薬を入れられた場合はどうなのだろう……興味がある。ミセルバ様があの狂わしい淫靡な表情で食事をしながら……なかなか面白いかもしれない。

 裏方の方は一息ついているようだ。メイド達も休憩らしい。ミセルバ様達の食事が終わればまた後片付けだ。そしてメイドは城内の見回り。就寝、または一部の者は宿直として仮眠室へ。決められたルートを一晩中見回ることになるのだ。そうして少しずつ夜は更けていく。


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