音楽会
 納得いかない……行くわけがない。ジボアールに諭され、結局なにも行動できない事になったロット。
正義心がリリスのあの事件を不問にしたくない気持ちを高まらせている。リリスさんはあれからなにも言っては来ない。当たり前だけど。
 悔しいはずだ……あそこまでされている以上。
「ロット、どうしたのそんな顔して」
「あ、いえっ、申し訳ありません」
 横にいたミセルバが問いかける。

 ――いけない、集中しよう音楽に。

 ここは楽神の間。主に音楽会等の開くときに使われる部屋である。すべてはミセルバとその一族のためだけの生演奏。優雅な雰囲気を盛り上げるために施された壁画の彫像、シャンデリアのように 美しいガラス、まるで教会のような所だ。
 指揮者が一人、演奏者は10人ほど。今日は、ミセルバがひさびさに演奏会を開いていた。ミセルバの左にアーチェ様、クローザー様もいらっしゃるようだ。今日はロットも御呼ばれの身。同じ貴族の身分だから、対等に扱われている。もちろん経済力、権力は天と地ほどの差はあるが。

「ふああ〜」
 アーチェ様があくびをされた。
「これ、アーチェ、不謹慎でしょう」
「ほほ、申し訳ない」
 軽くミセルバに会釈する16歳のお嬢様。だが内心ははやく終わってほしいのだろう。

 ――まったく……たいくつじゃ、こんなもの聞いてもつまらないわ。

 16歳にはクラシックはまだ早いようだ。だがクローザー様は別のようである。画家を目指していらっしゃるからこのような音楽にも興味がおありなのだろう。芸術を理解出来るのは芸術家だけなのかもしれない。ロットにとっては嫌いでも好きでもない……というところだろうか?こういう場には慣れている、が、大嫌いなところでもある。昔からよく演奏会には両親に連れて行ってもらっていた。しかしそれは見栄で行っていたのだ。お金もないのに借りてまで。

 ――すべてはプライド。貴族としての……それがものすごく嫌だった。ますます借金地獄に陥る家を想うと。たしなみとしては必要かもしれないが……。たしなみで借金が増えるのもおかしい。
 こういう演奏会の費用は聞きに行くだけでも庶民には高い。庶民の平均の報酬一ヶ月分は軽く飛ぶのである。しかしミセルバや大貴族の方にとっては、はした金だ。

 これが経済力の差でもある。本来ならロットも……力のある貴族なら。ん?第一楽章が終わったようだ
 ここで休憩らしい。

「やれやれ。まだ続きがあるのか?」
 平気で失礼な事を聞くアーチェ様。
「…………」
 ミセルバはもうあきらめているようだ。ロットにもちょっと笑みがこぼれる。アーチェ様に対するミセルバ様の顔を見ていると思わず笑いたくなる。
 心の中でクスッと笑いながらロットは部屋から出て行った。




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