夜も更けてきた城内。し〜んとした雰囲気があたりを包む。一人の女性が美少年の部屋へゆっくりと向かっている。

 リリスだ――

 だがいまいるリリスは、いつもとは違う。雰囲気がなにか違う。なんといえばいいのか、エロスだけではない、決意を秘めたような趣がある。

 ――何年ぶりかなあ〜男と関係もつのは。

 そう、リリスはもう3〜4年ほど男を絶っていた。深い関係になる予定はしばらくなかったのだ。相手はすべて女性。しいていえばガッツがまさに近い状態に無理やりされかけた者の一人だ。

 あ!――

 ビクッとするリリス。向こうからその人物が来るではないか。スッと下を向きはじめるリリス。よりによってここでこの男に会うとは。

「よお〜元気にしてたか?」
「…………」
「なんだよ連れないなあ」
 ガッツ以外に若い騎士が二人側にいる。にしても平気な顔をしている。この前のことなどなんとも思ってないのだろう。
「失礼します」
 と一言だけリリスは言って去っていった。




「あれですか?リリスというのは」
「ああ、そうだよ」
 ご機嫌ななめのご様子のガッツ。無視同然の対応だったからだろう。まあリリスがそうするのも無理はない。
「なかなか苦労されているようですな」
 若い騎士の一人が問い掛ける。
「あ?、馬鹿いえ、もうすぐだよもうすぐ」
 余裕をかましているような態度を取るガッツ。
「あのリリスという女、お気をつけになった方がいいかと思います」
 もう一人の騎士が注文をつけた。
「なに?お前、俺に意見するつもりか?」
 険しい顔つきになる。
「ガッツ様のために申しているのです」
「ほう〜リシュリューお前なかなか生意気なこというな。 さすが、いきなり騎士長になっただけのことはあるよなあ」
 いやみたっぷりにガッツが言い返した。

 リシュリュー……つい最近ミセルバ様の元で騎士長として仕えることになった者だ。他の領主の元で騎士を務めていたが、ガッツの親族の紹介でこの度ミセルバ様の元へと来ることになった人物である。この男の洞察力は鋭い。以前仕えていた領主の元で、不正を見事に暴き、人物としての評価も高い。
 なにせこちらに来るときに領主自身が熱心に引きとめていたほどだ。

「まあ〜なにからぬお前の意見だ。心には留めておく」
 ガッツもこの男の言うことには少し耳を傾ける気があるらしい。軽く会釈するリシュリュー。リシュリューはリリスを見て、何かを感じたのかもしれない。その後、ガッツは自分の部屋に入っていった。







 見送りが終わったあと二人の騎士が雑談しながら歩いている。

「さすがですねえ、リシュリュー殿、私だったらあんな事言ったらガッツ団長に怒鳴られてますよ」
「あの女性の持つ雰囲気、あれは昔覚えがあるんだ」
「ほう〜そうですか。ではリシュリュー殿もあの女が気になるので?」
「いや、気になってるのは女医さんのほうだよ」
 ニコッとリシュリューは若い騎士に微笑んだ。


 ――ガッツ殿――やけどを負わねばよいがな。

 リシュリューはそう思いながらゆっくりと歩いていった。


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