奥の部屋に入るミルミ。見ると女性が二人いる。一人はベッドで寝ていて、もう一人はこちらを見ている。
「こんにちは」
 ぺこりとあいさつ。礼儀正しい。リリスは無言でコクッとうなずいた。
「もしよかったら診てもらいなよ、身体が心配でね」
 どうやら心配して女医を呼んでくれたらしい。

「あ……はい。よろしく」
 なんとなくうなずくリリス。だが表情は暗い。
「あの……どこが悪いのでしょうか?」
 ミルミがたずねる。リリスは返答に困る。正直なんと言えばよいのか……
 まさかレイプされて身体が変ですとは言えない。
「…………」
 困ったのはミルミだ。白衣のポッケをキュッキュッと触りながら返答を待っている。

「あ、診てもらう必要がなければいいんじゃよ」
 おばあさんがこのきまずい雰囲気をなごませようとする。
「……ありがとう、おばあさん」
 ぺこりとリリスがオードリーおばあさんに頭を下げた。そのやりとりをじっと見ているミルミ。

 ――う〜ん……どういうこと?
 ミルミにはまったくわからない。

「あの……」
 リリスが言葉をかける。
「なんでしょうか?」
 ミルミが聞く。
「……その……私を診てもらえますか? それとちょっと話があるので……」
「はい、もちろん」
 ミルミはにっこりと笑った。リリスを貴族の娘と思っているようだ。

 二人は別の部屋へ向かった。

 (……やっぱり……思ったとおりのようだね。かわいそうに……)

 おばあさんはだいたいの予想はもうついている。そしてミクをそっと見る……

 (この娘さんは……大丈夫とは思うけど……にしても……メイド? どういうことじゃろ?)

 どうやらおばあさんは晩餐会を知らないようだ。 
 ミクはまだ寝ている……目を覚ますとき……ミクはどういう反応をするのだろうか……




「ええ? メイドさん?」
 びっくりするミルミ。てっきりアウグス家の娘と思っていたのが当てが外れたという顔だ。
「はい……」
 十分ほどの診察。なにも言わずに聴診器をあてて心拍数や身体の部位を調べるミルミ。
 診察が終わってじっとしているリリス。
 
 ミルミが気になっているのは紅いアザだ。
 いたるところにうっすらと赤みをおびているアザ。これがなんなのか知りたかった。
 だが、なんとなく……雰囲気的にこれがなんなのかがわかってきているようだ。こうなると慎重に聞かざる得ない。
 レイプされたことはリリスはまだ言っていない。ちょっと考えるミルミ。

「あ、もしかして晩餐会? ミツアーウェルさまの?」
「ええ、そうです」
「そうか……」
 じっと考えるミルミ。馬車と服装の疑問は解けた。で、次になんでここにいるのかという疑問が出てくる。

「そう、でもなんでここに?」
「……ええ……実は……」
 リリスが話そうとしたとき……

「こちらですわ、リリスさんという人は」
 向こうでオードリーおばあさんの声が聞こえる。
「よろしい?」
 ノックするオードリーおばあさん。
「ええ、いいですわ」
 ミルミが言う。

 するとドアから18歳の美しいドレスを着た女性があらわれた。帽子にベールをかけて貴婦人スタイルの女性……


 その女性がリリスを見て驚く……


「リ……リリス! リリスお姉さま!」
 思わず叫んでしまったお姉さまという言葉!


 まぎれもなくミセルバさまであった。
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