「わわっ!――――」
 思わず目をつぶる! 顔に青い液状のものが降りかかった。うろたえるミリアム。これは予想外だ。

「ゴホゴホッ! うう……」
 チラリと咳き込みながらシスアを見る。微笑んでいるシスア。ムッとする感情がめがね青年を包む。

 ――な、なんて女だ……

 しかし顔に吹きかけられたものは次第に顔をを曇らせていく。顔に感覚がない。なくなっていくのだ。
「うふふ、どう? ご気分は?」
 じゃれている少女のように聞いてきたシスア。微笑みの中にたくらみがある。
「ゴホッ……な、何をするんです!」
 ますますしびれてくる顔。そして眠けが襲ってきた。頭がボーっとしてくるミリアム。
「しばらく寝て頂戴」
 無邪気に笑う小悪魔のような女。目が強烈に眠りにつけと命令している。そのまま床に倒れこむ。ギラッとシスアを睨む。ここまでされたらいくらなんでもそりゃ怒る。しかし……眠気には勝てない。

 力なく倒れこむめがね青年……

 (ふふ……うまくいったわね)
 最初からこの予定だったのだろう。頼み込むだけでは、ミリアムは落せない。

「出てらっしゃい」
 隣の部屋に誰かいるのだろうか? すると……

 女がでてきた。少女のようなタイプだが……

「眠ったの?」
「ええ……よく効く薬みたいね、正直驚いたわ。どこでもらってきたのよ?」
「女医さん……」
 ぼそっと答える女。メイドのようだ。少々気が小さい、背も低い。おどおどしている。シスアとは対照的。
「ベッドに寝かせましょう、手伝って」
「うん……」
 言われたとおりにするメイド。何か弱みでも握られているのだろうか? 
 こんなことを一緒にするとは……

「縛って頂戴」
 二人がかりでなんとかこの青年をベッドに寝かせる。そして両腕と両脚をベッドの四肢に拘束させ始めた。寝ているミリアム。即効性の睡眠薬は効果てきめんのようだ。

 (さてと……どうやって言うこと聞かせようかしら……)
 思案を重ねるシスア。この女、やはり腹黒そうだ。このまま、リリパットの愛人で終わるつもりはないらしい。チャンスを……さらに大きなものにするためには……


 女は……

 人生を賭けなければいけない時がある!

 それは貴族の娘も、平民の女も同じだ!

 ミセルバ様が動くように、シスアもひそかに動き始めた。
 お互い目的は違うけれども……



「リリスさん……」
 ミクがリリスの胸でお休みしている。じっと胸の中で寝ているミク。最近やっと落ち着いたようだ。やすらかに眠っている。それをやさしく抱きとめるリリス。

「寝言……ね」
 この数日だ、ミクとまともに話をするようになったのは。リリスの方が元気で、ミクの方がショックが大きかった。本来なら逆かもしれない。リリスは本当に強い。幼い頃から地獄を見てきた女にとって、これぐらいではへこたれないというのだろうか?

「……ミセルバさま……」
 つぶやくリリス。
 ミセルバ様は、本気だ。このままで済ますつもりはないと言った。心配しているのはむしろ、リリスの方だ。びっくりしたのは、あの強気の目だった。今までのミセルバ様にはない目だったのだ。その目が、このままでは済まさないという力を出していた。

 ――思い出せるなら……どんなことでもいいっておっしゃっていたわね。

 ミセルバはリリスに対して、まず心当たりはあるかと聞いた。こういうことをされる心当たりを聞いたのだ。かなり前のこともでも、引っかかることがあれば、すべて話すように言われている。

 先日の時は話さなかったことがある……後日、思い出したためだ。

 それは……


 ガッツのことだ。襲われかけたことと……
 
 それと……香水……
 そう、ガッツの時も……あの香水の匂いと……
 今回にも……あの香水……が、印象に残っている。

 ――妙に……記憶に残っているのよね。でも……

 ガッツは中央に行っているはずだ。この地にはもういないはず。

 ゆっくりと考えるリリス。考える……
 
 考える……

 まだ考える……

 胸の中でミクを眠らせながら。考えるリリス。

「言うわ……今度……ガッツとのことも……」
 ポツッと言ったリリス。その時ミクの眉がピクッと動いた。

 陵辱された女も行動を開始した。
 
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