「疲れる……」
 あのシスアとの痴態から数日がたった。あんなことは初体験のミリアム。女に犯されたことはもちろん初めてだ。

 ――まったく……恐ろしい女だ。そして無謀な女だ。

 関わりたくない第一号だ。しかしそろそろセックスしなければならない。ここ数日は憂鬱だった。リリパット卿に会うたびに胸が痛む。
「ミリアム様、プリナという女性が会いにきておりますが」
「プリナ?」
「はい、シスア貴婦人のメイドと申しております」
「通してください」
 疲れた声で言うめがね青年。とうとうこの日が来た。

「こんにちは」
 プリナだ。シスア専属のメイドの一人。
「……やあ」
 椅子に座ったまま力なく言う。すると近づいて……
「今宵、ご相談したいことがあると……」
 耳元で言うプリナ。その言葉を聴いて嫌な気分になる。
「……ああ……わかった」
 いよいよご奉仕の始まりだ。
「では、失礼します」
 立ち去ろうとするプリナ。
「待ちたまえ」
 それを制止する。ちょっと意外に思うメイドさん。するとミリアムが近づいてくる。


 さっと身体を守る!

「あ……いや……そんな意味ではない」
 さすがに驚いたようだ。こんな態度に出られるとは思わなかったのだろう。
 すると再び座って、
「君のこの前の話……もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「あ……ええ……はい」
 プリナはそっとミリアムの方に向いた。

「気の毒だとは思っている」
「…………」
「しかし腑に落ちない点があるのだ。君は殺されたと言っていたね」
 小声で慎重に話すミリアム。コクッとうなずくプリナ。

 プリナの家は小さな一貴族の家柄だった。ツス家と交流があったらしい。しかし、5年前クローラ地方からツス家によって追放された。それだけではない。隣り合わせの領主の領内でプリナ以外の家族はなぞの死を遂げているのだ。

「いろいろ調べてはみたのだが……死因は自殺・崖からの転落死としかないのだ」
「自殺なんかしません! 殺されたと思います」
「この前もそう言っていたな……根拠は?」
 ミリアムが慎重に聞く。
「わたし……わたしたち……家族」
 急に泣き出した!

「お、おいおい……」
 これは困る。思わず泣いているプリナの肩をそっと抱く。

 さすがは手馴れている。

「自殺なんか……しません。するわけないんです」
「……するわけがない?」
「前日に……前日に……」
 そこまで言うと、さらに泣きじゃくる。座り込んでしまった。

 ――これはまいったな。
 ちょっと困るミリアム。すると次の瞬間……

「殺される前日に、どうしてこれからがんばって生きていこうって言うんですか?」
 このプリナの悲痛な訴えに目を丸くするミリアム。
「あなたの父はそう言われたのか?」
「そうです、そうなんです! でも……誰もわかってもらえなくて……」
 
 ――なるほど……そういうことか……

 前日に家族でみんなでもう一度がんばっていこうと言った父……それがどうしてプリナだけ残して翌日いきなり一家心中するというのか……

 確かに疑問だ。プリナの母だけでなく、兄も妹も一緒に死んでいるのだ。一家心中するならプリナを残すことは考えにくい。

「お願いします、ミリアム様。よろしくお願いします」
 サッと頭を下げるプリナ。しかし本当ならミリアムの方が頭を下げなければならない立場なのだが。
 プリナはもうパリス家という名を捨てていた。持っていても狙われるだけだからだ。

「わかった……この前も言ったが協力はしよう。ただし調べるだけだ、それ以上の意図はないからね」
 念を押すミリアム。一つ間違えば自分も危ない。
「お願いします、お願いします」
 何回もおじぎしてお願いするプリナ。本当に一生懸命だ。痛々しいほどに……

 プリナが部屋から出て行った。プリナが帰るやいなや、頭を悩ませるミリアム。



 ――ああ……どうして俺は……こんなことに巻き込まれるんだ。

 本音は冗談じゃない! という気持ち。最近リリパット卿に会うのも怖い。いつばれて殺されると思うとゾッとする。本当にシスアは嫌なことを持ち込んでくれた女である。

 その嫌な女を今日、いやいや抱きに行くめがね青年。モノはしっかり勃つのだろうか?
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