身体が硬直しているロットの母親。

 緊張している。これからくるであろうと思うことを考える……
 だが、リリパットはにそういう意図はなかった。庭に案内する。ミリアムと一緒に……

「あの男はあいかわらずか」
「はい……」
「このままでよいのか?」
 リリパットが心配そうに尋ねる。
「……私の夫のことは、私と夫で決めます」
 夫婦のことに口を出さないでほしいというミシェスタシア。昔、栄華を誇った貴族のプライドまでは捨ててはいない。

 その気丈さに、また惚れるのだ。その気丈さが美しい。

「……わかった」
 リリパットにとって、なぜ別れないという想いはある。借金でだらしない男であるミシェスタシアの夫。
 そんな男となぜわかれないと。

 家を継いでいるのはミシェスタシアだ。これでも一応当主。貧乏当主だが。
 なら、なぜ……別れない……そう思いたくなる。
 それに比べて、ツス家の当主とは天と地の差がある。財力の違いとは、権力の違いでもあるのだ。
 だが、地位的には同じ身分。

 二人は面識があった。昔からのつきあいだ。この家は、ツス家、アウグス家、ミシェスタシアの家が隆盛を誇っていた頃からのつきあいなのだ。

 だが、ミシェスタシアが後を継ぐ前には、もう没落していた。それでも、地位は高い。だからこそ、同等のおつきあいをしている。
 しかし、だからといって、権益を与えることは決してない。力を持てば、へたをすればライバルだ。
 さらに、一度没落した貴族の家が、再興するには、並大抵では無理である。

 となれば、女性にとって、またはその子孫にとっては一番いいのは、
 他家に嫁ぐ、養子に入ることだ。しかし、それは家を捨てることになるが。

「どうだ、きれいであろう」
 自慢の庭を紹介する。お城のような雰囲気の庭だ。まるでミセルバさまのお城の中だ。本来なら、このような雰囲気を出すことには問題があるのだが。城の雰囲気をみせつけれるのは、あくまで領主の家柄だけというのが、慣例なのである。しかし、このツス家は違っていた。

「ええ……ほんとに……あの……御当主」
「ん?」
 リリパットが聞く。
「いえ……なんでもありませんわ」
「残りの借金のことか」
「…………はい」
 思いつめているミシェスタシア。もらった金額では全額返済できない。いずれまた金利で膨らむだろう。こうなれば、全額貰おうと思っているらしい。


 もちろん……代償は……


「考えてもよい」
「ほんとうですか?」
 サッとリリパットを見る。ミリアムがピクッと動いた。

「ただし、条件がある」
「……わかっています」
「ん? わかっているだと」
 不思議そうに聞くリリパット。麗しき母親は覚悟を決めている。
 しかし、リリパットの言葉は意外だった。

「そなたが危惧していることではない。あることをやってもらう。とにかく、まずはロットを説得せよ」
「……あること?」
「大事にするのだ、君自身は……心も身体もな」

 不気味なやさしさだ。ミリアムも驚いている。
 それから、二人はゆっくりと時間をかけて話をした。

 結局これで終わった……なにもなかったのだ……
 そういう一日であった。



 迷っているミセルバ……


 王検を使う……
 王族検察官……

 あれから、ずっと考えている。どうやって復讐しようかと。リリスとミクのために……

 ……無理よ……できるわけないわ。あれってお飾り組織じゃない。

 王族検察官とは、本来領主の不正や悪事、反乱などを取り締まる身分の検察官のことだ。国王、王族直属であり、領主の命令などは一切受け付けない。
 
 だが、この組織はお飾り組織と呼ばれていた。
 詳しくいうと長くなるが、昔、皇族騎士や軍部との権力争いで、腑抜けの組織にされてしまったのだ。

 憂鬱になるミセルバ。

 ――リシュリューは、やってみる価値はあるって言ってたわね。でも……

 どうやって?

 ――王に頼むとでもいうの? そんなこと出来るのかしら? それに……そんなことをしたら両家のおつきあいはめちゃくちゃになるわ。

 でも……不正は許せない。いえ、あの男は許せない。わたしの大事な……

 キュッと身体が引き締まる。いくら領主でも一人の女性だ。限界もある。
「寝ないと……」
 ベッドで考え込む。さらに憂鬱になる。


 こんな時は……

 オナニーに限る。

 ゆっくりとミセルバは手をあそこへ回した。
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