ミセルバがマゾになるための準備を、ちゃくちゃくと自分で進めてから数日後のことだ。

 いつものように、女領主の元へ、書類を持っていく少年がいる。
 ロットだ。すると部屋の前でミセルバさまと出会った。

「あ、ロット、お母様が来てるわ」
「え?」
 いきなり母上が? と驚くロット。
「ええ、ほら、会いにいかないと」
 クスッと笑うミセルバさま。ロットはまだびっくりだった。いきなり何の用だと思う。

 ――もしかして……お金……

 嫌な気分になる、もちろんミシェスタシアにたいしてではなく、その借金を作った男に対してだ。
「わかりました」
「案内してあげて、モーラ」
「はい」
 側にはあのモーラがいる。最近ミセルバさまの午前の世話役とかになったらしい。リリスとミクがいないのが理由。といっても、ミセルバ様の世話役は持ちまわり制であるが。

 ロットは憂鬱になる。正直お金の話は聞きたくないからだ。
 母親の父親に対しての考え方にも同意できないロット。

 ――ふう〜

 軽くため息をついて、モーラに案内されていった。




 貴族ご用達の待合室に案内されたロット。お客の地位によって、どこの待合室に案内するのかもメイドの仕事の一つだ。

 ロットの家柄は、ミセルバ様や、リリパットの家柄と並ぶ品格。経済性と権力を除いてはだが……
 だから、この待合室なのだ。部屋に入ると母親がいた。ミシェスタシアである。モーラが部屋からでていく。


 ――ちょっと! ちょっと! なによ、あの美しさは!

 初めてミシェスタシアを見たらしい。ロットの母親であることはモーラも知っている。有名だからだ。
 しかし、実際に目の当たりにした美しさは絶景であった。

 同じ女性でも惚れ惚れするほどだ。

 数十分後……ミシェスタシアがやってきたという噂は、おそらくお城中に響き渡っているに違いない。

「母上、お久しぶりです」
「元気にしていましたか?」
「はい」
 少しはにかむロット。だが、この美しさには驚かない。自分の母には見とれないのは当たり前か。

「少しお話があるの。いいかしら?」
「ええ、では別室へ……」
 ロットたちは別の部屋に向かうことにした。


 お話などをする場合、喫茶店などは、よく使うことは多いだろう。それと同じように、お城の中にも、似たようなところがある。ただし、現代と違って、身分によって使える場所が違う。
 ロットたちが、向かった部屋は、貴族が使うことを許された場所であった。

「母上……何用ですか?」
 早速本題に入るロット。お金のことならはやく聞きたいらしい。そしてさっさと済ませたいのだ。
「あなた……養子になるつもりはないかしら?」
「え?」

 いきなり言われた言葉……それはリリパットの指示を受けたミシェスタシアの言葉であった。




 ……悩むわ

 ロットがいない間、一人で悩んでいる女領主。もちろん、オナニーの悩みではない。貞操帯バイブオナニーの次の日、リシュリューたちと再び密会した。
 

 いろいろと話を聞いた……

 しかし、とても成功できるとは思えないミセルバ。どうやって王のご許可を貰うと言うのか……

 リシュリュー騎士長の王検を使うという大胆な案は、確かにインパクトはある。これができたら、リリパットも畏怖するであろう。
 しかし、それは同時にアウグス家の重鎮たちも畏怖することになるはずだ。当然、そういう組織が動かないように、どこも王家に働きかけている。

 残念ながら、良くも悪くもだいたいみな、悪い事はやっているのだ。ミセルバさまぐらいの年齢ならまだないかもしれないが、年寄り貴族が、真っ当な人生では生きていけないのは、当たり前の時代であった。

 密輸は重罪だが、現代の交通違反のようにみな平気でやっているのが現状……
 そうやって非売品や、盗品を当然のようにコレクションで集めている者もいる。それでも、平民が集めていたら、ちくって財産を取り上げることもある。ようは、有力貴族だけの特権にされていた。

 ――迷惑かけるかしら……

 そりゃ迷惑だろう。しかも、領主クラスを取り締まる組織が動いたら、最悪領主でも逆らえない。そんな怖い組織を動かしたがる地方領主はまずいない。

 ――でも……

 方法がない。このままでうやむやは絶対に嫌のミセルバだった。
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