虐待新書。

 ほぼ毎日ひそかに読んでいる書。その中ほどに……今ミセルバが一番気になっている行為がある。

 それは……複数でのプレイ。そう、ミク一人だけではないプレイだ。前々からこの部分をよく読んでいる
 この複数に陵辱されるという章には、下人から貴婦人が犯され、最後には欲望の虜になるというものだ

 ――どきどきする、考えただけで――

 されてみたいというMの欲求が込み上げるのだ。だが、ミクはコピー出来ない。
「…………」
 まさか半分に切るわけにもいかない。

 でも、複数にされるって……どういうものかな?

 人間の指は10本……それが二人なら20本、いろいろな所を触られて……愛撫されて……弄られて。

 ――ああ〜やだ、濡れてきちゃった。

 地下牢でミクを待っている間に必ず読んでいる虐待新書。本当にためになる。こういうことには。だが、ちょと考えるのをやめると、すぐにリリスの事が思い浮かぶ。シスアたちにいろいろ聞いてから数日。まだリリスからは意見を聞いていない。後で聞こうと思ってはいたのだが。

 ――踏み切れない――

 今リリスとは正直話したくないのだ、話せば……ミクとの言い争いになる可能性もあるのだ。いまのミセルバの感情では。

 ――嫌ね……私、嫌な女になりそう。

 人の上に立つ人間として、冷静ならないと。だが、心には嫉妬心が沸々とわき上がる。この前ミクと話はしたけど……でも、まだわだかまりがある。

 リリスと話せば……でも、今はいや――何言ってるの、ミセルバ、リリスからも話を聞かないと……リリスだけのけ者にしてるみたいよ。

 駄目よ。ミセルバ、しっかりしなさい。

 心の葛藤が続くミセルバ……今から楽しい時間なはずなのに……今日はとてもそんな気分になれないかも。ため息をつく御領主。と、そんなことをしている間にミクがやってきた。
「こんばんは」
 にっこり微笑むミク。だが、ミセルバの様子が違うと見るや表情が変わる。

 ――やっぱり、思いつめているんだわ。ミセルバ様。

 御領主が納得していないのはミクにもわかっていた。だが、こればかりはどうすることも出来ない。リリスお姉さまもミセルバさまも好き……。

 こういうのが本当は一番困る。だもミクはなんとなく憎めない。かわいい、素直な性格……変なところでおとぼけ。人徳でもある。
 そっとミセルバの両肩を抱くミク。ミセルバがミクを見つめる。きれいな裏のない目……それがまたミセルバを困らせるのだ。
「ミク、私のこと好き?」
「はい」
 にっこりと微笑むミセルバ。ふふ……ミクを見てるとホッとする。
「ミセルバさま、私はミセルバ様もリリスお姉さまも」
 言いかけたときにミセルバが言い返す。
「わかっているわ……ミク、ねえ〜もういいのよ。だから……して」
 ミセルバが甘えてきた、が、ミクがそれに待ったをかけたのだ。


 驚くミセルバ――

 まさかミクが、私に……ミクがこういう行動に出るとは思ってもみなかったミセルバ。
「ミセルバ様、リリスお姉さま・・お嫌いですか?」
「え?」
「だって……リリスお姉さまだけ話を聞いていないって……聞きました」
「ミク、もちろん嫌いじゃないわよ」
 噂……とは怖い。みなどうしてリリスからも意見を聞こうとしないのか不思議に思うのは無理もない。まして次はリリスになるだろうとほとんどのメイドは思っていたからだ。噂はだいたい悪い方に広まる。よからぬ事が城内をもう駆け抜けているのだ。御領主は……リリスを排除しようとしているのではないかと。


 ミセルバは黙っている。嫌いじゃないというのは嘘だ。特に今は――ミクをひとりじめにしたい。リリスから離したい。そういう心がミセルバの意思を支配している。だがミクにそれを言ったところで事態は好転するはずもない。ミクはお互い両方とも大事。ミセルバにもそれは良く分かっている。
 だから余計になやむ。


 ――はあ〜どうすればいいの?ミク、あなたを嫌いにはなれない……リリスにも昔はこんな感情はなかった。将来はメイドの長にするつもりだった。

 ――私は……どうすればいいのかしら。悩むミセルバ。そのミセルバにミクが改めて声を掛ける。
「ミセルバ様、リリスさんを、リリスさんを」
 ちょっとうつむいてミクが意を決したような顔で


「好きになってください!」
「え?」

 思いがけないミクの言葉。ミセルバはただただ……驚くばかりだった。





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