だが、肝心のルビアは留守……

「いつ帰ってくる?」
 ルビアの執務室にいるジトに聞く。
「さあ〜」 
 そっけない返事だ。こういう返答をするように言われているのかもしれない。
「僕は監査役だぞ?」
「ですから、ここでじっとしてお守りくださいませ」
 という風に言うように言われているらしい。

 ――くそ〜

 相手にされていないことに腹が立つポポ。
 こうなったら……

「わかったよ」
 と言ってさっさと部屋を出た。

 (殿下は本当にルビア殿Bに構ってほしいらしいな)

 男としてなんとなくわかるジトだったが、ポポの相手をしていては、いつまでたっても物事が進まないのだ。結局この手紙の件をジトにも言わなかった。

 ――こうなったら一人で乗り込むぞ!

 好奇心が不安をかき消す。その気になればこの城から出るのは簡単。もう脱出方法も把握済み。  王城よりももっと楽らしい。

 ポポは決意を固めた。馬鹿にされているなら、見返してやると考えたのだ。

 ますますアイリーンの思うとおりになってきた。



「来るかな〜」
 手紙の場所で待つ部下達。アイリーンが倉庫の奥で座っている。スカートタイプの盗賊スタイルでばっちし決めているようだ。

 ここは、街外れの山の倉庫。ここに来るには一本道になっている。その一本道は、周りが城壁のような土の壁で覆われており、上から下へ攻撃されたらひとたまりもないと思うような場所だ。
 その先の空き家の倉庫がここ。

 ちょっと裏手に歩くと川が流れている。船が渡っていけるほどの大きさだ。

「来ないならまた考えたらいいよ、ふあああ〜」
 8:2の割合で来るとは思っていないアイリーン。今日は小手調べぐらいに思っているらしい。
 もし、思ったとおりの展開になるならしめたものというぐらい。

 だいたい、一国の皇太子殿下が、一人で来るわけがないと思うのが普通だ。

「来ました! 姉さん!――」
「一人かい?」
「一人ですよ!――」
「え!――?」
 驚く部下達。にやっと笑うアイリーン。
「行動派殿下ってのは本当らしい、念のために、本当に一人かしっかり調べるように、いいな!」
「はい」
 伝令役の娘がもう一度戻る。

 ――ふっ……ほんとに来るとはね。しかも一人?……ふふ、たいしたもんだ。

 半身半疑だったアイリーン。いきなり忙しくなってきたようだ。



 城壁のような壁の間の大きな一本道を歩いていく少年がいる。

 殿下だ。

 黒いマントで身体を覆っているようだ。
 こうやって紋章つきの服を見られないようにしている。
 城から抜け出し、ここに来るまでは簡単だった。

 ――うわ〜なんか……雰囲気すごいな〜

 妖しい雰囲気が漂う場所。左右は土壁のような壁がずっとそびえている。
 
 そして……

 その向こうではアイリーンの部下の娘達がうろうろしている。
 だが、その気配はまったく殿下にはわからない。さすが盗賊娘。

 好奇心には勝てなかったポポ。それと相手にされていないということが一番悔しいのだ。その想いがここへ一人で来させてしまった。


「間違いないです、確かに一人ですよ」
「そうかい」
 立ち上がるアイリーン。
「よし、手はずどおりやるんだよ」
「はい」
 娘達が動き出した。ポポを人質にすれば、なんでも出来るのだ。
 もちろんルビアも手に入れることも……
後ろ ルビアTOP