「やっぱり本物かい」
 アジトでアイリーンが得意げに言う。
 あれから数日、お忍びで来たことはもう街中にも噂になっていた。
 こういうのは必ず広まるものなのだ。
 だいたい、メイドが知ってしまっている時点で、もう決まっている。

 さらに中央からきた軍人達が、盗賊団退治の目的というのも、一部の人にはもう伝わっていた。
 となれば、情報網の鋭い組織なら……

「で、どうするんですか?」
「そうだねえ〜」
 考えているアイリーン。これはますます面白いと思っている。

「とりあえず、捕まえちゃおうか?」
「え? 本気ですか? 姉さん」
 側にいた仲間が聞いた。
「本気さ」
 どうやら本気で捕まえるらしい。

「捕まえて、どんなタイプか知りたいしね」
「はあ〜」
 ちょっとあきれている。まさか捕まえるとは思っても見なかったらしい。
「うまくいけば、目狐の連中にも打撃を与えれるかもしれない」
「捕まえてですか?」
 意味がわからない仲間の娘。

「それと、ルビアの方はどうなった?」
「どうやら、姉さんの思っていた人物のようです」
「そうか……だったらそっちにも協力してもらおうか」
「え?」
 今度は不思議に思う仲間の娘。

「よし、そうと決まれば計画練るよ」
 情報はほぼ筒抜けになっていた。ラルクルのお城のメイドが知っていることはすべて筒抜けだ。ポポが監査役ということぐらいだろう。知らないのは。


 次から次に情報が入ってくる。入ってくるのはいいが、あまり使えるものはない。怪訝なルビア。

 ――あ〜自分が動きたい。

 これが今一番したいこと。ところが、トップになるとそうは行かないものだ。大将というのはデンっと構えているもの。ルビアは報告を聞いて指揮する立場である以上、動くことはむずかしかった。
 一息入れるためにコーヒーを飲む。もちろんこれは媚薬入りじゃない。しかし、まだまだしっかり効いているようだ。

 その証拠に夜は……というわけ。

 あれから殿下とは関係は持っていない。のらりくらりとかわしている。殿下の方も、とにかくなんとかしようという気持ちもないらしい。それより、ルビアと話がしたいようだった。
 肉欲よりも、トキメキをほしがっているようだ。だが、ルビアにとって、正直そんなことはどうでもいい。

 もうこのまま関係は断ち切りたい。それが本音だった。


 一方のポポ。

「ヒマだね〜」
 ベッドでゴロゴロ〜ご〜ろゴロ。
 ルビアは忙しく相手にもしてくれない。もうメイドのスカートめくりは飽きた。何か刺激がほしい。

 刺激が。 
 すると……

「失礼します」
 メイドが入ってきた。いつものメイドとは違うようだ。
「なに?」
 ヒマでしょうがないポポ。なんでもいいから暇つぶしがしたい。
「お手紙を渡すように言われたのですけど……」
「手紙?」
 メイドさんが持ってきた手紙を見るポポ。たしかにポポさま宛と書いてある。

 あこがれの殿下へと……

「受け取ってほしいとのことです」
「うん、わかったよ」
「それでは……」
 と帰ろうとするメイドのスカートを!

「きゃあああああっ!――――」
 びっくりするメイドさん。しかし怒りはしない。

「な、なにするの! で、ですか!――」
「あはははっ」
 平気な顔して笑う殿下。飽きたといいながらも目の前にあるとつい……といったところか。
「もう!――」
 と言ってメイドさんは出て行ってしまった。ところがここで、何かが引っかかるポポ。

 ――おかしいな、あのメイドが履いていたショーツ……いつもと違うぞ?

 そんなことまでチェックするとは……意外とまめなタイプの殿下。

「ラブレターかな?」
 皇太子ともなれば、こういう手紙はよく来るものだ。普通は取り次いでもらえずに終わるのだが。
「ん?」
 

 ――盗賊の一味の極秘情報あり。詳しくは急ぎ今から下記の場所へ来られたし。

 義の人間より。

 一緒に地図まで入っている。これはラブレターじゃない。

「……あ……さっきのメイド!」
 ショーツが違っていた。
 実はここのメイドのショーツはある決まったタイプの物をみな履いていたのだ。何十人のスカートをめくって、ショーツを見てきたのだから間違いない。威張ることでは決してないが。

 ところが、さっききたメイドは違った。

 ――なるほど……ということは……

 あれはここのメイドじゃない!

「う〜ん……罠かな」
 考えるポポ。罠の確率高し。ルビアに相談するか迷う。

 ――相談して決めよう……

 目が冴えるポポ。面白いことになってきた。暇で退屈な時によくぞ来てくれたという感じだ。
 ポポは一目散にルビアの執務室へ向かっていった。
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