「はじめましてジト少尉、ルビアです」
「ジトです、このたび配属になりましたよろしくお願いします」
 筋肉質の男がにっこりと敬礼して微笑んだ。

「ではルビア殿、あとは頼んだぞ」
「はい」
 ルビアが部屋を出て行くゼット少将に一礼した。ちらりとルビアを見る少将。なにか気に入らないらしい
 偏見のこりかたまった男のようだ。
 一方こちらはまったく対照的な男、ジト。

 ――見ればみるほどいい女だな、この年齢で准佐かよ……俺もがんばらんと。

 対抗心はあるみたいだが、なんとなく成功しそうに見えないタイプのようだ。結婚すれば理解のある男に見えるが。軍人向きではないかもしれない。
「ところでジト、メルビンはどうなったか知らないかしら?」
 ついさっき突然今日からジトが配下に加わり、メルビンは御用済みと言われたのだ。

「私はよくは知りませんが、行方不明とか」
「え?」
「体調を崩して休んでいたということですが……どうやらいないということのようで」

 ――どういうことよ、それ……
 ゼット少将はなにも言ってくれなかった。まあ言う気もなかったのかもしれない。

 ――まあいいわ、とりあえずは。

「ジト、では殿下のご挨拶に」
「はい」
 二人は部屋を出て行く。

 ――後ろから……


 ――見るのも、なかなかのモノだな。

 腰が左右にエロチックに動く。もともとお尻や胸を誇張するスタイルの軍服。ましてなんとなく欲求不満を抱えている腰。夫がいなくてさびしいのと訴えているかのようだ。ジトだけに訴えているわけではない、後ろから見るものすべてに訴えているのかもしれない。と、勝手なことをジトと筆者は想像しながら、二人は殿下の元へと向かっていった。





 案の定……今日は殿下の様子がおかしい。ルビアは気になっている。目も赤い……ジトを紹介しても、なんとなくの反応。

 ――どうしたのかしら?

「殿下、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
 ちょっとふらつき気味。風邪もひいたらしい。精神的に参っているのだろう。まして今日もメルティーナ王女と顔をあわせたのだ。想像するだけでも……なんとなくわかる。

「ふう〜まあなんだ、その、みなのんびりしてくれたまえ」
 えらそうに言うところは殿下らしいのだが。

 ――眠い。

 ――眠い……やっぱ寝よう。

「ちょっと疲れた休むことにする」
「はい」
 とそのままベッドに倒れこむ殿下。限界がきたのだろう、数分後にはぐうぐう寝息をかきはじめた。

「やれやれ、夜遊びでもされてたのかな?」
 ジトがポポの寝顔を見ながら言う。

「まだまだ子供ですから」
 クリティーナがにっこりと微笑んだ。たしかにまだまだ子供である、でも下半身はもう大人だが。
「それにしてもメルビン大尉はどういうことなんでしょう」
「さあ〜私もわからないわ」
 ルビアとクリティーナはそのことで談笑している。

「いろいろあるみたいですね」
「え?まあな」
 こちらはクライシス外交官とジト少尉。

 ――メルビンのこともそうだが……しかし、なんで他国の外交官が……

 ジトはこちらも不思議でしようがない。他国の官位をもらったモノが殿下のお守り?一歩間違えば軍の機密情報が漏れないとは限らない。殿下は子供だが、万が一にはある程度の決定権はもてるからだ。
 正式な皇太子になればその権力の大きさも莫大になる。

 ――まあ、いいけどな。俺には関係ないし……。

 軍人らしからぬ考え方だ。にしても……

 暇だ。

 殿下が寝てしまったなら、ただ側に居て一日が終わる。することはほとんどない。これもお役目だ、平和な証拠でもある。しかし絶対はない。城内に居るときはまず危険は少ないが。危険度が増すのは外出するときぐらいだろう。もちろんいつどこでも油断はできないが。

 ――俺もいつかはこれぐらいの子が……ほしいよなあ〜

 ジトが殿下を見て思う。家庭的なものを好むジト。やさしい女性を嫁に貰って……う〜んいいねえ〜

 ますます軍人向きではないようだ。
 今日も暇だ。平和な一日が終えようとしていた。




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