ふう〜一息ついた。

 場面は変わってこちらはルビアの夫の登場だ。ここはルビアの屋敷から一キロほど離れた商店街のはずれ。この場所で店を開くことにしたマグアイヤ。昨日の今日でもう店を開くための店舗が決まった。普通ならこうはいかない。理由はもちろんルビアの肩書きだ。王宮の軍人、まして王族の警護をしている家族の方となれば貸店舗の賃料はまず間違いない。身元もしっかり保証されている。

 ――あっという間。何の苦労もなく。

 ――でも、これでいいのか?俺。

 ちょっと元気のないマグアイヤ。向こうにいた時も店を出したいと思えばすぐ出せた。そしてこちらでもだ。売り上げは別として……。すぐになにかしたいと思えばある程度は出来る……でも、それは……。

 自分の力じゃない――

「それではよろしくお願いします」
「はい」
 ぺこぺこと頭を下げる老人。この建物の持ち主だ。土地や建物を貸して暮らしているらしい。現代でいえば不動産業。頭を下げている相手は王宮の軍人だ。ルビアの部下である。なにか書類を持ってきたらしい。
「ではマグアイヤ殿、われわれはここで失礼します」
「あ、はい本当にありがとうございました」
 ぺこぺこと同じように軍人に頭を下げるマグアイヤ。商人は頭を下げてなんぼだ。軍人たちは帰っていった。

「いやあ、これからもよろしくお願いしますよマグアイヤさん」
「ええ、こちらこそすぐに決まってうれしい限りです」
「ははは、そりゃあもうこちらも契約していただきうれしい限りですよ」
 にこにこ笑う老人。うれしいのは当たり前だ、証拠は表の看板にある。

 ――骨董品マグ――と書いてある横に……――

軍の紋章が大きく彫ってある。そしてその下に王宮軍認可の店……という文字が。

 つまりうれしいのはマグが店を出すことではなく、看板に軍の紋章と認可証が掲げられることがうれしのだ。ようはブランドである。この老人にとっては、うちの建物や土地には認可を受けた店が多いとの証になる。こうなれば組合、つまりギルド等で強気に出れるのだ。そして後ろ盾がなにもない人間が店を借りたいならうちの場合は少し高くなりますよという商売も出来る。

「では、マグアイヤ殿、私はこれで。商売繁盛を祈っております」
 老人は機嫌よく去って行く。マグアイヤは座り込んだ。ゆっくりと周りの商品を見つめる。

 ――商品や僕を見てあの老人はこの店を貸してくれたのではない。

 ゆっくりと彫刻の考える人のようなしぐさで座り込むマグアイヤ。

 ――はあ〜これが現実かよ、ルビアがいなければ何も出来ないのと同じじゃないか。
 何か、何か俺に出来ること、俺に出来ることってないのか?


 ……あっ……あった……。



 ――セックスだ。そうだ、そうだよ俺だけだ、ルビアにセックス出来るのは、俺だけだぞ……。昨日は激しかったよな。久しぶりだったからかな?それにしてもちょっとキスしただけでもう……。

 昨日のセックスはよほど激しかったらしい。あのちょっとした庭での不審者事件の後、濃厚な愛撫を繰り返した二人。あんなに色っぽくいやらしいルビアは初めてだったマグアイヤ。愛撫を始めたらあっという間に淫乱女に早代わりだったのだ。

 ――今日もがんばろう。
 そう思うだけで股間が熱くなる。次々と昨日の激しいセックスを思い出す。

 ……ああしたら悶え声が凄かったよなあ、それにあの体制からの表情の良さといったらもう〜

 ――なに、なに考えてるんだよ。俺……。
 ますます卑屈になるマグアイヤだった。

 

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